日本経済新聞「映画万華鏡」で今年、最後に取り上げた作品です。
原作者の思想性がクローズアップされ、何かと物議をかもしているようですが、作家は作家、小説は小説、映画は映画として別に見るべきだと思っています。
映画としては非常によくできています。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
言わずと知れた作家、百田尚樹氏のベストセラー本の映画化。
原作の空気を損ねていないか。
戦闘員として稀有な主人公をきちんと描けたのか。
そこが最大の関心事だったが、全て杞憂に終わり、重みのある人間ドラマに仕上がった。
零戦搭乗員の宮部久蔵(岡田准一)。
並外れた操縦技術を持ちながら、敵機が現れると、スッと戦闘から離脱する。
生還が第一。
そのため仲間から臆病者呼ばわりされていた。
なぜそんな行動を取ったのか。
戦争から60年の時を経て、孫の健太郎(三浦春馬)と慶子(吹石一恵)が戦友や関係者を訪ね歩き、その謎を探る。
いわば2人は祖父の心を伝えるメッセンジャー的な存在だ。
部下が次々と大空に散っていく。
さらに戦況の悪化で特攻が始まる。
脳裏によぎる愛妻、松乃(井上真央)の顔……。
久蔵の苦悩は深まるばかり。
そこがテーマとあって、彼の思い詰めていく姿をカメラは丁寧にかつ、執拗に追う。
この心理描写は秀逸。
岡田の鬼気迫る演技に気圧された。
過去と現在を巧みに交錯させ、ミステリー仕立てで物語が小気味よく展開する。
複雑に思える人間関係も的確に整理されていた。
全ての真相が明かされる場面には息を呑んだ。
祖父の遺志に導かれるがごとく、健太郎がキーパーソンと対峙する。
その緊張感が時の隔たりを無にした。
目を見張らされたのがVFX(視覚効果)を駆使した空戦のシーンだ。
「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズでの実績を生かし、山崎貴監督は徹底的にリアル感を追求した。
久蔵の動きがひと目でわかる。
映画ならではの見せ場だった。
戦争の愚かしさ、鎮魂の願い、家族の大切さ、そして生きることの尊さ。
特攻に志願した彼の背中から深い想念が迸っていた。
あゝ、涙なくして観られなかった。
2時間24分
★★★★(見逃せない)
☆21日から全国東宝系ロードショー
(日本経済新聞2013年12月20日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)