武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

なぜ戦わないのか!? 生きることを問う『永遠の0』

投稿日:2013年12月21日 更新日:

(C)2013「永遠の0」製作委員会

日本経済新聞「映画万華鏡」で今年、最後に取り上げた作品です。

原作者の思想性がクローズアップされ、何かと物議をかもしているようですが、作家は作家、小説は小説、映画は映画として別に見るべきだと思っています。

映画としては非常によくできています。

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

言わずと知れた作家、百田尚樹氏のベストセラー本の映画化。

原作の空気を損ねていないか。

戦闘員として稀有な主人公をきちんと描けたのか。

そこが最大の関心事だったが、全て杞憂に終わり、重みのある人間ドラマに仕上がった。

零戦搭乗員の宮部久蔵(岡田准一)。

並外れた操縦技術を持ちながら、敵機が現れると、スッと戦闘から離脱する。

生還が第一。

そのため仲間から臆病者呼ばわりされていた。

なぜそんな行動を取ったのか。

戦争から60年の時を経て、孫の健太郎(三浦春馬)と慶子(吹石一恵)が戦友や関係者を訪ね歩き、その謎を探る。

いわば2人は祖父の心を伝えるメッセンジャー的な存在だ。

(C)2013「永遠の0」製作委員会

部下が次々と大空に散っていく。

さらに戦況の悪化で特攻が始まる。

脳裏によぎる愛妻、松乃(井上真央)の顔……。

久蔵の苦悩は深まるばかり。

そこがテーマとあって、彼の思い詰めていく姿をカメラは丁寧にかつ、執拗に追う。

この心理描写は秀逸。

岡田の鬼気迫る演技に気圧された。

過去と現在を巧みに交錯させ、ミステリー仕立てで物語が小気味よく展開する。

複雑に思える人間関係も的確に整理されていた。

全ての真相が明かされる場面には息を呑んだ。

祖父の遺志に導かれるがごとく、健太郎がキーパーソンと対峙する。

その緊張感が時の隔たりを無にした。

目を見張らされたのがVFX(視覚効果)を駆使した空戦のシーンだ。

「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズでの実績を生かし、山崎貴監督は徹底的にリアル感を追求した。

久蔵の動きがひと目でわかる。

映画ならではの見せ場だった。

戦争の愚かしさ、鎮魂の願い、家族の大切さ、そして生きることの尊さ。

特攻に志願した彼の背中から深い想念が迸っていた。

あゝ、涙なくして観られなかった。

2時間24分

★★★★(見逃せない)

☆21日から全国東宝系ロードショー

(日本経済新聞2013年12月20日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。