残暑厳しい中、クールなヒロインを映画館で見て、暑気払いしませんか。
殺人マシーンと化した16歳の少女が銀幕を駆け抜ける。
こんな表現がぴったしの娯楽アクション。
『ニキータ』(1990年)や『レオン』(94年)のヒロインとはまた違った凄みのある少女だが、時折、覗かせるあどけなさに魅せられた。
主演はシアーシャ・ローナン。
英国映画界の俊英ジョー・ライト監督の代表作『つぐない』(2007年)でキーパソンを演じた彼女が、本作でハンナ役に抜擢され、同監督と再びコンビを組んだ。
まさに適役だった。
雪深いフィンランドの奥地でハンナは父親エリック(エリック・バナ)に育てられた。
外界から隔絶された2人だけの空間。
自給自足の厳しい暮らしの中で、格闘技術や銃剣の扱い方、語学などを教わる。
そんな少女が社会に飛び出た瞬間、命を狙われる。
憧れていた世界がとてつもなく残酷という設定。
情操教育として父親から与えられたグリム童話が伏線となっており、それが全編の流れを決めている。
ハンナを追い詰めるのがCIAの女性捜査官マリッサ(ケイト・ブランシェット)。
冷酷非情、そこに偏執的な性格が加わり、どう見ても魔女である。
ブランシェットはよく似た役どころが多く、何だか楽しんで演じているような感じ。
なぜ少女が襲われるのか。
その理由が彼女の出生と深く関わっている。
この謎解きが次第に浮き彫りにされるが、もう少しベールに包み込んでほしかった。
殺す動機も弱い気がする。
ハンナはベルリンを目指す。
その過程で驚異的な身体能力を発揮。
顔色ひとつ変えず、粛々と敵を打ち倒す姿が見どころだ。
理屈抜きに強い。
しかし旅行中の英国人家族との出会いで、10代の女の子であることを自覚する。
揺れ動く心理。
そこが一抹の清涼剤として利いていた。
1時間51分
★★★
☆全国で公開中
(日本経済新聞2011年8月26日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
スタイリッシュな少女の殺し屋~『ハンナ』
投稿日:2011年8月30日 更新日:
執筆者:admin