武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

少女が引っ張る西部劇『トゥルー・グリット』

投稿日:2011年3月26日 更新日:

トゥルーグリット
(c)2010 PARAMOUNT PICTURES.All Rights Reserved.
東日本大震災・大津波の影響は、映画界にも波及しています。
洞窟に閉じ込められ、水の中を脱出するアクション『サンクタム』が公開延期になったり、手塚治虫の代表作をアニメで再現した『ブッダ』(5月28日公開)の中で津波のシーンがカットされたり……。
この『トゥルー・グリット』の原稿は、先週金曜の日経新聞夕刊に掲載されるはずでしたが、1週遅れて昨日載りました。
確かに、こういう時に映画なんて浮世離れしていると思われるでしょう。
でも、こういう時だからこそ、文化・芸術・娯楽は元気を与える素になりそうな気もします。
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
少女が物語をぐいぐい引っ張る。
それも一途な復讐心と正義心に基づき、一筋縄でいかない2人の男を従えるのだから、面白くないはずがない。
こんな西部劇があってもいい。
監督はジョエルとイーサンのコーエン兄弟。
農場主の父親を殺された14歳の娘マティ(ヘイリー・スタインフェルド)が、犯人を捕まえるため、隻眼の連邦保安官ルースター(ジェフ・ブリッジス)を雇う。
「真の勇気」(トゥルー・グリット)を持つといわれる男だが、それがどうしようもない飲んだくれ。
ブリッジスは昨年、アカデミー賞主演男優賞を受賞した『クレイジー・ハート』とよく似た役どころで怪演ぶりを披露している。
しかしそれを上回るのが全くの新人スタインフェルドの熱演だ。
健気で真っ直ぐな気持ちをぶつけ、ルースターの心をつかむ気骨ある少女になりきった。
凄まじい気迫が彼女から伝わってくる。
2人は反発しながらも、先住民居留区に逃走した犯人を追跡する。
そこにテキサス・レンジャーの青年(マット・デイモン)が加わる。
実によく喋る人物で、自分の仕事に過剰なほど誇りを持ち、終始、粋がっていて、笑わせる。
異質な3人組とあって当然、不協和音が生じるが、なぜか心地良い。
この物語は、ジョン・ウェイン主演で「勇気ある追跡」という邦題で1969年に映画化された。
それと比べると、マティの存在感が際立つ。
本当の勇気とは何かを知った彼女の体験記とも言える。
それを象徴するルースターのひたむきな行動が強烈に脳裏に焼きつく。
ひねりの利いた演出が信条のコーエン兄弟だが、本作はストレートに描き切った。
冬の夜空の下で繰り広げられる決闘なんぞ本格西部劇そのもの。
ただ、まっとうすぎて、正直、やや物足りなさを感じたが……。
1時間50分。
★★★
(日本経済新聞2011年3月25日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
☆公開中

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。