武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

才能あふれる瀬田なつき監督の新作、『PARKS パークス』公開中

投稿日:

(C)2017本田プロモーションBAUS

涼風がそよぐ、そんな爽やかな映画だ。

 

公園そのものが主役で、そこにたおやかな音楽が絡む。

 

ファンタジックなポエムのような、それでいて芯のある青春ドラマに仕上がっていた。

 

東京の「井の頭公園」開園100周年記念映画。

 

この公園と全く縁のない大阪出身の瀬田なつき監督が感性豊かに映像を紡ぎ出した。

 

冒頭、満開の桜花の下、女子大生の純(橋本愛)が軽快に自転車のペダルをこぐ。

 

何とも淡い感触。

 

一気に映画の世界に引きずり込ませる。

 

公園脇のアパートで暮らす純は恋人に去られ、大学留年の危機にある。

 

全てがうまくいかない。

 

そんな彼女の元に女子高生のハル(永野芽郁)が訪れる。

 

亡き父親の過去を探るハルの謎めいたキャラクターと浮遊感が独特な彩りを添える。

 

永野の吹っ切れた演技がことさら印象深い。

 

やがて50年前に父親と恋人がテープに残した未完のラブソングが見つかる。

 

(C)2017本田プロモーションBAUS

 

その女性の孫トキオ(染谷将太)を巻き込み、3人で曲を完成させる。

 

本筋に至るまでの経緯がやや複雑。

 

それでもしなやかに物語を形作っていく瀬田監督の演出は見事としか言いようがない。

 

1960年代に刻まれた青春時代の記憶と現在の情景が重層的に交錯する中、音楽がクロスオーバーしながら前面に浮き上がってくる。

(C)2017本田プロモーションBAUS

全37曲。全編を包み込むサウンドが耳に心地よい。

 

ギターを弾き語る橋本の伸びやかな歌声が胸に響く。

(C)2017本田プロモーションBAUS

ミュージカルをまねたシーンも添えられ、どこまでも自由で開放的な作風。

 

それが本作のエッセンスだ。

 

自然光を採り入れた映像はカラッと明るい。

 

軽やかさを強調させるため、風と草木の音を視覚的に描いたのも効果的だった。

 

気がつけば、公園、音楽、映像が一体化していた。

 

何だか夢見心地に浸れた気分。

 

不思議な映画である。

 

1時間58分。

 

★★★★(見逃せない)

 

☆シネ・リーブル梅田で公開中、13日から神戸国際松竹で公開

 

(日本経済新聞夕刊に2017年5月12日に掲載。許可のない転載は禁じます)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

京都で「反論」講演会、盛り上がりました!

京都で「反論」講演会、盛り上がりました!

映画が日本で最初に上映されたのは京都ではなく、大阪だった~! 拙著『大阪「映画」事始め』(彩流社)のトピックスに対する「反論」の講演会が昨日(28日)、京都・壬生のおもちゃ映画ミュージアムで開かれまし …

映画『万引き家族』のお母さん役、安藤サクラさんはどこまでも自然体でした~(^_-)-☆

映画『万引き家族』のお母さん役、安藤サクラさんはどこまでも自然体でした~(^_-)-☆

非常に気になる日本の女優……、安藤サクラさん。 カンヌ映画祭の最高賞パルムドール受賞作『万引き家族』でたくましくも、けったいなお母ちゃんを演じてはりました~😁 秋からスタートのNHK朝 …

日本で初めて映画を上映した荒木和一さん撮影の(?)16ミリ映像を鑑賞~(^_-)-☆

日本で初めて映画を上映した荒木和一さん撮影の(?)16ミリ映像を鑑賞~(^_-)-☆

昨日、大阪・天六(天神橋筋六丁目)のシネマパブ「ワイルドバンチ」でスペシャル上映会が開催されました。 125年前、発明王エジソンに直談判し、エジソン社の映写機ヴァイタスコープを日本に輸入した荒木和一さ …

希望に向かって少年たちが疾駆する~『トラッシュ! この街が輝く日まで』

希望に向かって少年たちが疾駆する~『トラッシュ! この街が輝く日まで』

これは観させる映画でした。   子供が主人公の映画は、ともすれば嫌味っぽくなりがちですが、本作はビンビン心に響きました。   ☆     ☆     ☆     ☆     ☆   …

「船場の映画塾」にお邪魔しました~(^_-)-☆

「船場の映画塾」にお邪魔しました~(^_-)-☆

自宅からほど近い大阪・南船場に、「船場の映画塾」(旧北堀江映画塾)という俳優養成塾があるんですね。 運営母体はキャンディッド映画社。 全く知らなかった……(;^_^A 同社が制作したYouTube番組 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。