(c)2009 Twentieth Century Fox
思い通りにいかないのが人生。でも思い通りにいかそうとするのも人生。
これ、ぼくの人生哲学です。
アメリカ映画『クレイジー・ハート』は、まさにこの人生観を描いていました。
きのう日経新聞夕刊に載った映画の原稿をどうぞ。
* * * * * *
かつての栄光は今いずこ。
落ちぶれた「伝説のカントリー歌手」が再生を図るヒューマン・ドラマ。
ダメ男ぶりをジェフ・ブリッジスが堂々たる演技で披露し、今年のアカデミー主演男優賞を獲得した。
酒とタバコに浸り、どさ回りを続けるバッド(ブリッジス)はむさ苦しい57歳の独身男。
不健全極まりない。
新曲の創作意欲も失せ、投げやりで破滅的な生き方を突き進む。
愛弟子のトミー(コリン・ファレル)が自分を追い抜き、人気シンガーに成長したことも不摂生に拍車をかける。
年配のファンの前で酔いながらギターをかき鳴らし、往年のヒット曲を歌うバッド。
一見、おざなりのようだが、決めるところはバシッと決める。
本物のミュージシャンだ。
そこが魅力的。
親友のウェイン(ロバート・デュバル)やトミーらが見放さず、彼を気遣うのがその証しである。
そんなバッドの前に地方新聞の女性記者ジーン(マギー・ギレンホール)が現れる。
4歳の息子を育てるシングルマザー。
孤独感を癒すように2人は急接近し、バッドの澱んだ魂に火が灯る。
この展開、ミッキー・ロークが中年のプロレスラーに扮した「レスラー」(2008年)とそっくりだが、こちらはカラッと乾燥した空気で包み込み、陰鬱さを感じさせない。
それがカントリーによく合う。
ジーンとの成り行き、息子との関係、バッド自身の行く末……。
この映画は観る者の期待を心地よく裏切る。
思い通りにいかないのが人生。でも思い通りにいかそうとするのも人生。
そのことをじんわりと伝えてくるから後味がいい。
ブリッジスが実際にギターを弾き、ボーカルを聴かせる。
存在感満点の演技。
カッコいい。
それを引き出したスコット・クーパー監督の演出にも拍手を送りたい。
1時間51分。★★★★(見逃せない)
☆TOHOシネマズ梅田などで公開中
(日本経済新聞2010年6月18日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
『クレイジー・ハート』~不恰好な人生、でもカッコいい!
投稿日:2010年6月19日 更新日:
執筆者:admin