武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

迫力満点! ドイツの山岳映画『アイガー北壁』~

投稿日:2010年3月23日 更新日:

アイガー北壁_メイン
(c) 2008 Dor Film-West, MedienKontor Movie, Dor Film, Triluna Film,
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Majestic Filmproduktion, Lunaris Film- und Fernsehproduktion All rights
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スポーツとは娯楽、競争、肉体鍛錬、そして限界への挑戦を目的とするものだが、そこに国家の思惑が絡むと、途端に息苦しくなる。
この作品はその酷さを、容赦のない自然の厳しさの中であぶり出したドイツの山岳映画である。実話に基づく。
舞台はスイスの名峰アイガー(3975?)の北壁。垂直に切り立った1800?もの絶壁を、ぼくはこの目で見たことがあるが、人を寄せつけない威容を誇っている。
1936年7月、当時、前人未到だったその難所にドイツ人登山家トニー・クルツとアンディ・ヒンターシュトイサーが挑んだ。幼なじみで、共に23歳。
好きで登るのならまだしも、1か月後にベルリン五輪の開催を控え、ナチス政権が登頂者に金メダルを授与すると宣告したことから、国家ぐるみの事業へと変質していく。
ドイツ人の優越性を世界に誇示する絶好の機会ととらえたのだ。
2人はナチスのシンパではない。
特にトニーはプロパガンダに利用されるのを疎ましく思っていたが、時代の空気がそれを許さない。
個人の征服欲と国家の威信。その狭間で揺れ動くクライマーの行動を重厚な映像に焼き付ける。
本作は一部、巨大な冷凍庫の中で撮影されたが、昨年公開された日本映画「劔岳 点の記」と同様、現場主義に根ざした山のシーンは圧巻だ。
しかもザイル(ロープ)やハーケンなどを駆使して岩をよじ登るロッククライミングとあって、計り知れない緊張感を与える。
1本のザイルで宙吊りになる場面には体が固まった。
登山家が命がけで苦闘する北壁の地獄絵図を、麓の高級ホテルから望遠鏡で眺めることができる、そのシチュエーションの何と残酷なこと。
そこにぼくは国民に犠牲を強い、傍観する国家の怖さを見た。
監督はフィリップ・シュテルツェル。
2時間7分。★★★(見応えあり)
シネ・リーブル梅田で公開中。27日(土)よりシネ・リーブル神戸、4月3日(土)より京都シネマにて公開!
(日本経済新聞2010年3月19日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。