武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

使命感と家族愛、その狭間で苦悶する女性報道カメラマン……『おやすみなさいを言いたくて』

投稿日:

この映画を観て、いろいろ考えさせられました。

 

みなさんも考えてください。

 

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

                 Ⓒ paradox/newgrange pictures/zentropa international sweden 2013

PHOTO Ⓒ Paradox/Terje Bringedal

混迷のアフガニスタン。

 

子供と別れ、自爆テロを敢行しようとする母親を女性写真家が一部始終、激写する。

 

必死の形相。

 

凄まじい冒頭シーンである。

 

カメラを手にするその彼女も実は母親である現実を本作は容赦なく突きつける。

 

レベッカ(ジュリエット・ビノシュ)は有能な報道カメラマン。

 

過酷な現状を世界に伝えるべく強い使命感を抱き、命がけで紛争地を飛び回っている。

 

プロ意識に徹する彼女の全身から情熱がほとばしる。

 

ところが留守を預かる海洋学者の夫マーカス(ニコライ・コスター=ワルドー)と2人の娘との間に、いつしか距離が生まれていた。

 

帰宅すると、何とか気持ちをオフにしようと努めるも、スムーズに普通の生活を送れない。

 

仕事と家庭。

 

その両立の難しさを実感している人が多くいると思う。

 

レベッカの場合はしかし、「仕事中毒」に陥っているだけに、解決の糸口がなかなか見つからない。

 

抑えきれないエゴに苦しむ。

 

家族も同じだ。

 

だから究極の選択を強いられる。

 

頭から海に突っ込む夢想的な場面がそれを象徴していたように心理描写が秀逸だった。

 

主人公は、性別が違えども、元報道写真家のノルウェー人監督エーリク・ポッペの分身だという。

 

「おまえは死臭がする」

 

「娘たちはいつも母親の死を怯えている」

 

夫の言葉に胸が痛む。

 

13歳の長女ステフは母親への反発を露骨に表すが、仕事の重要性も理解している。

 

そんな娘と一緒にケニアの難民キャンプを訪れるくだりは想定内の展開とはいえ、キーポイントとなる。

                Ⓒ paradox/newgrange pictures/zentropa international sweden 2013

PHOTO Ⓒ Paradox/Terje Bringedal

ビノシュの演技が素晴らしい。

 

被写体に肉迫するレベッカを体当たりで熱演。

 

その彼女を手持ちカメラでぐいぐい追っかける。

 

ドキュメンタリー映画さながらの臨場感あふれる映像だ。

 

報道する人間は他にもいる。

 

しかしわが子にとってママは1人だけ。

 

家族が原点。

 

ラストに救われた。

 

1時間58分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆13日からテアトル梅田ほかで公開

 

(日本経済新聞2014年12月12日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

郷土誌「大阪春秋」からの依頼原稿を脱稿! 『映画と上方の芸能、演芸~切っても切れない間柄~』

郷土誌「大阪春秋」からの依頼原稿を脱稿! 『映画と上方の芸能、演芸~切っても切れない間柄~』

春からこつこつと調べ、書き進めてきた大原稿を脱稿~!! 郷土誌『大阪春秋』(季刊)からの依頼原稿です。 「メディアと上方の芸能」(仮)という特集で、ぼくは映画との関わりについて書きました。 歌舞伎、文 …

話題のアメリカ映画『オッペンハイマー』(29日)公開!

話題のアメリカ映画『オッペンハイマー』(29日)公開!

29日公開のアメリカ映画『オッペンハイマー』。 アカデミー賞で、作品、監督、主演男優、助演男優など7部門で受賞した注目作です。 広島・長崎に原爆を落とした〈張本人〉の物語だけに、ものすごく関心を持って …

日経新聞で連載『〈ケルト〉映画の旅』が始まりました~(^_-)-☆

日経新聞で連載『〈ケルト〉映画の旅』が始まりました~(^_-)-☆

昨年暮れ、日経新聞東京本社から原稿依頼がありました。 『〈ケルト〉映画の旅』 こんなテーマで、毎週水曜日夕刊文化欄の「鑑賞術」で執筆してほしいと。 ケルトと映画~!! ぼくの得意中の得意分野なので、即 …

最恐のエンターテインメント~『来る』(公開中)

最恐のエンターテインメント~『来る』(公開中)

映画ファンのための感動サイト「シネルフレ」で『武部好伸のシネマエッセイ』というコーナーを持たせてもらっています。 12月分は現在、公開中の日本映画『来る』です。 夜半、ウイスキーをちびちびやりながら、 …

講演会『映画のはじまり、みな大阪』のお知らせです~(^_-)-☆

講演会『映画のはじまり、みな大阪』のお知らせです~(^_-)-☆

『映画のはじまり、みな大阪』 こんな演題で来年2月9日(土)午後2時~、大阪市立中央図書館で講演します。 映画上映、興行、活動弁士、大スター、映画本……。 みな大阪が発祥地で、大阪人が絡んでいます。 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。