この映画を観て、いろいろ考えさせられました。
みなさんも考えてください。
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Ⓒ paradox/newgrange pictures/zentropa international sweden 2013
PHOTO Ⓒ Paradox/Terje Bringedal
混迷のアフガニスタン。
子供と別れ、自爆テロを敢行しようとする母親を女性写真家が一部始終、激写する。
必死の形相。
凄まじい冒頭シーンである。
カメラを手にするその彼女も実は母親である現実を本作は容赦なく突きつける。
レベッカ(ジュリエット・ビノシュ)は有能な報道カメラマン。
過酷な現状を世界に伝えるべく強い使命感を抱き、命がけで紛争地を飛び回っている。
プロ意識に徹する彼女の全身から情熱がほとばしる。
ところが留守を預かる海洋学者の夫マーカス(ニコライ・コスター=ワルドー)と2人の娘との間に、いつしか距離が生まれていた。
帰宅すると、何とか気持ちをオフにしようと努めるも、スムーズに普通の生活を送れない。
仕事と家庭。
その両立の難しさを実感している人が多くいると思う。
レベッカの場合はしかし、「仕事中毒」に陥っているだけに、解決の糸口がなかなか見つからない。
抑えきれないエゴに苦しむ。
家族も同じだ。
だから究極の選択を強いられる。
頭から海に突っ込む夢想的な場面がそれを象徴していたように心理描写が秀逸だった。
主人公は、性別が違えども、元報道写真家のノルウェー人監督エーリク・ポッペの分身だという。
「おまえは死臭がする」
「娘たちはいつも母親の死を怯えている」
夫の言葉に胸が痛む。
13歳の長女ステフは母親への反発を露骨に表すが、仕事の重要性も理解している。
そんな娘と一緒にケニアの難民キャンプを訪れるくだりは想定内の展開とはいえ、キーポイントとなる。
Ⓒ paradox/newgrange pictures/zentropa international sweden 2013
PHOTO Ⓒ Paradox/Terje Bringedal
ビノシュの演技が素晴らしい。
被写体に肉迫するレベッカを体当たりで熱演。
その彼女を手持ちカメラでぐいぐい追っかける。
ドキュメンタリー映画さながらの臨場感あふれる映像だ。
報道する人間は他にもいる。
しかしわが子にとってママは1人だけ。
家族が原点。
ラストに救われた。
1時間58分
★★★★(見逃せない)
☆13日からテアトル梅田ほかで公開
(日本経済新聞2014年12月12日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)