きょうから、見ごたえのある映画が公開されます。
『別離』というイラン映画。
グイグイ引き込まれていきますよ。
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©2009 Asghar Farhadi
いきなりイングリッド・バーグマンにそっくりな女性の顔の大写し。
意表をつく出だしから、予測できない濃厚な人間ドラマを生み出した。
本年度アカデミー外国語映画賞を受賞したイラン映画。
冒頭の女性シミンとその夫ナデルは裕福な中産階級。
1人娘テルメーの教育のために妻は国外移住を望むが、認知症の父を抱える夫はそれに反対し、今まさに離婚の危機にある。
2人は西洋的な価値観を持つインテリだ。
特に進歩的な女性の象徴ともいえるシミンの生き方を見て、イラン人に対するイメージが大きく覆された。
©2009 Asghar Farhadi
彼らと対照的なのが、ヘルパーとしてナデルに雇われた女性ラジエーと夫ホッジャト。
©2009 Asghar Farhadi
貧しさにあえぎ、イスラムの教えに忠実に生きようとしている。
2組の夫婦から、女性差別、貧富の差、信仰、教育、介護など現代イランの社会問題が次々にあぶり出される。
どれも新鮮に映った。
これだけでも十分、興味深い内容なのに、そこに ナデルとラジエーの間で起きた〈事件〉を絡ませ、人間の本質的なテーマに迫る。
そのもめ事が裁判沙汰となり、両夫婦の対立を際立たせる。
わが身と家族のことを思って、各人が秘密を持ち、嘘をつく。
だからなかなか真相に辿り着けない。
それがどんどん自分を苦しめる。
描かれる対象は狭いが、描く世界は驚くほど広くて深い。
人間の心模様を容赦なくえぐり出すアスガー・ファルハディ監督の執拗な演出。
音楽が一切ないのに、最後まで力強く引っ張る。
謎解きのような展開になるが、決して答えを明かさない。
観る側に全てを委ねる。
そこが本作の要だ。
動揺する大人たちの中にあって、冷静に事態を見据えるテルメーの姿が痛々しい。
ラストでは一転、清々しい表情を見せる。
グサッときて、救われた。
2時間3分
★★★★
●公開日程
4月14日(土)から大阪・梅田ガーデンシネマ、
4月28日(土)から京都・京都シネマ
5月5日(土)から兵庫・元町映画館 にて公開
(日本経済新聞2012年4月13日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
オスカーを受賞したイラン映画~『別離』
投稿日:2012年4月14日 更新日:
執筆者:admin