大阪ストーリー(11) 大阪の食、粉もんだけやおまへん(2019年11月)
☆愛情を込めて難波ネギを栽培
「おっ、こんな街中に畑がある!」
Osaka Metro御堂筋線長居駅から北東へ約600メートル、大阪市住吉区大領に約1000平方メートルの四角い畑地が広がっています。
周りは病院、学校、住宅、マンションが建ち並んでおり、この緑の空間だけがぽっかり浮き上がっているような感じ。
昭和30年代まで、辺り一帯が田畑だったそうです。
畑の8割を占めているのが青ネギ。
そのネギ、シャキッとしておらず、くびれているのが多く、手で触ると柔らかい。
スーパーで見かけるネギとはちょっとちゃうぞ……。
「難波ネギです。ほら、ぬめりがあるでしょ。これが栄養分で、独特な甘さをかもし出します。いわば、うま味成分。だから重さで葉折れがするんです」
この畑で難波ネギを育てている上田隆祥さんが葉をちぎって見せてくれました。
たしかに葉の内側にゼリーのようなぬめりがべっとり付いています。
舐めると、甘い!
明治時代まで難波一帯がこのネギの一大産地だったので、難波ネギと名付けられました。
鴨なんばの「なんば」はこのネギに由来しているとか。
かつて大阪では難波ネギが普及していましたが、折れ曲がっていて見映えが悪く、ぬめりのせいで切りにくい。
そのうえ栽培にも手間ヒマがかかり、いつしか流通から外れてしまいました。
34年前、石油会社を定年退職し、父親の跡を継いでこの地で農業を始めた上田さんが数年前から難波ネギ一本に絞り、土づくりや防虫対策に工夫を凝らし、丹精込めて育ててはります。
収穫物はスーパー、百貨店、うどん店、お好み焼き店などに直送されています。
「霜が降りても美味しいんです。こんなネギ、ありませんよ。京都の九条ネギは難波ネギが原種です。単なる薬味ではなく、しっかりと食べられる美味しいネギなんやというのを多くの人に知ってほしいですなぁ」
とても81歳には見えない上田さんからお土産にもらった難波ネギを炒め物や煮物でいただきました。
旬(1~2月)には早いとはいえ、ネギに対する価値観がひっくり返るほど胸にキュンときました。
☆伝統野菜の普及を!
そんな上田さんを紹介してくれたのが難波りんごさん。
芸名みたいですが、「本名なんです」と。
1995年に天王寺カブラ(カブ)の復活に力を注いだのをきっかけに、大阪の伝統野菜を普及すべく、『葱(ネギ)サミット2020 in 大阪―難波葱ファミリー大集合』(2020年1月19日)などを企画し、精力的に活動してはります。
天王寺一帯がカブの名産地だったのをご存知ですか。
天王寺区のサブキャラクター「カブの太子」や同区内の小学校の校章にもカブがあしらわれています。
「普通のカブラと比べて甘さが2倍以上。煮てもくずれませんし、葉も美味しくいただけます」
おススメのこのカブラ、野沢菜の祖先ではないかとみられ、難波さんらは長野県野沢温泉村と交流を続けています。
ホテルのレストランやカフェで食材として使われたり、節分には総本山四天王寺で「天王寺かぶら汁」を提供したり……。
難波ネギしかり、ぼくの知らないところで大阪生まれの野菜がじわじわと浸透してきてるんや!
「ほかにも大阪にはいろいろ伝統野菜があるんですよ」
そう言って、難波さんがリーフレットを見せてくれました。
そこには大阪府の認証を受けた「なにわの伝統野菜」がズラリと列挙されていました。
これまた、ほとんど知らなんだ!
難波葱〈ネギ〉(浪速区)、金時人参〈ニンジン〉(同)天王寺蕪〈カブラ〉(天王寺区)、毛馬胡瓜〈キュウリ〉(都島区)、田辺大根(東住吉区)、玉造黒門越瓜〈シロウリ〉(中央区)、芽紫蘇〈メジソ〉(北区)、守口大根(同)、大阪しろな(同)、勝間(こつま)南瓜(西成区)。
鳥飼茄子(摂津市)、高山真菜〈マナ〉(豊能郡)、高山牛蒡〈ゴボウ〉(同)、三島独活〈ウド〉(茨城市、三島郡)、吹田慈姑〈クワイ〉(吹田市)、服部越瓜(高槻市)、泉州黄玉葱〈タマネギ〉(泉南一帯)、碓井豌豆〈エンドウ〉(羽曳野市)。
トータルで18品目、そのうち大阪市内が10品目。
幼いころ、ニンジンといえば、これしかなかった赤っぽい金時人参も大阪発祥だったとは……。
☆大阪もんを食す!
この際、大阪生まれの食材をもっと口にしてみたい。
そう思ったぼくに、難波さんが素敵な情報を教えてくれました。
大阪木津卸売市場(浪速区敷津東)で開催された食のイベント『なにわ食いだおれマーケット in 木津市場』(10月26日)。
ウキウキして会場に足を向けると、「大阪産(もん)コーナー」がありました!
まずはいの一番に、「浪速割烹弁当」をいただきました。
なにわの伝統野菜をはじめ、犬鳴ポーク、大阪湾で獲れたボラや鱧(ハモ)などすべて大阪の食材で調理されており、何ともお上品な味わいで、ぼくの体内に流れる浪花っ子濃度が一気に高まった~!
この弁当を創作した「ごちそう」プロデューサーの広里貴子さんは「大阪人なので、当然、地元の食材を使いたいんですが、まだまだ認知度が低いですね。
一度、口にしてもらったらわかるんですけど」
たしかにその通りです。
伝統野菜を販売していた野菜ソムリエの資格を持つ植谷佐江子さんはこんなコメントを。
「大阪のスーパーでも、『京野菜』のコーナーはあるのに、『大阪野菜』のコーナーはあまり目にしません。野菜摂取量は大阪の女性が全国でベベタ(最下位)、男性が下から二番目やし、もっと地元大阪の人に知ってもらいたい。目下、天満宮の近くが発祥といわれる天満菜を普及させようと思うてますねん」
「やっぱり地元を応援せな。そう思うて、昨年からなにわの伝統野菜の練り天を始めましてん。あちこちのイベントで出店してますが、結構、手ごたえありますよ」と元気一杯、答えてくれたのが平野区の蒲鉾店専務、森山けい子さん。
その向かいで、6月に開催されたG20大阪サミットの晩餐会で使われたプレミア泉州タマネギを射手矢康之さんが懸命に売り込んではりました。
野菜の他にも大阪湾産のシラスやタコのコロッケ、バジルソース、食肉加工品、いちじくプリンなど大阪もんがいろいろありました。
ほんまに「井の中の蛙」状態だったと思い知らされた次第です。
☆粉もんだけやおまへん
「粉もんだけが大阪の食ではありません。昔から受け継がれているええ食材を地元大阪の人にどんどん食べてほしいわ」
難波さんが訴えている「地産地消」の願いがぼくの胸にビンビン響きました。
そう言えば、肉、魚、野菜、ワイン、地酒などすべて大阪産の食材を出す日本料理店が自宅近くにありましたわ。
ネットで調べると、府認定の大阪産(もん)名品が143事業者、350商品も!
ジャンルは菓子、昆布・佃煮、調味料、乾物、飲料、酒類、漬物など多岐にわたっています。
大阪産を世に出している人、扱っている人、関わっている人はみなぼく以上に大阪愛が強かったです。
これから食事する際、こだわってみようと思いました。
「食い道楽」「食の都」と呼ばれる大阪。
生まれ育った街にかくも多彩な、かつ素敵な「食」の源があることを知り、すごくうれしくなりました。
「灯台下暗し」とはまさにこのことですね。
大阪の人、もっと胸を張りましょう!