武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

エッセー 大阪 大阪ストーリー

大阪ストーリー(12) 大阪市内で漁業!?~大阪湾と淀川河口は「魚の宝庫」~

投稿日:2020年12月20日 更新日:

大阪ストーリー(12 大阪市内で漁業!?~大阪湾と淀川河口は「魚の宝庫」~(2020年1月)

☆大阪市の漁業協同組合

前回のエッセイ『大阪の食、粉もんだけやおまへん!』の取材で、食のイベント『なにわ食いだおれマーケット in 木津市場』を訪れたとき、「しらすコロッケ」と「たこちゃんコロッケ」の直売所に「JF大阪市漁業協同組合」の幟(のぼり)を見て、びっくりしました。

「えっ、市内に漁協があるのん!?」

大阪産の「しらすコロッケ」と「たこコロッケ」は大繁盛

古くから大阪湾は海の幸に恵まれ、「茅渟(ちぬ)の海」と呼ばれていました。

一番よく獲れた魚がクロダイだったので、「チヌ=クロダイ」になったそうです。

大阪市が日本一の大都会「大大阪」になった大正末期から港湾エリアに工場がどんどん建てられ、戦後も阪神工業地帯の中核として名を馳せました。

だから大阪府下は別として、市内での漁業はまったく想定外でした。

ところがちゃんと漁業が営まれていたのです!

好奇心に突き動かされ、此花区にある市漁業協同組合に向かいました。

オフィスは大阪北港ヨットハーバーのすぐ東側です。

潮風がそよぎ、「海の世界」を存分に実感。

総務次長の畑中啓吾さんがいろいろ資料を見せてくれ、わかりやすく大阪市の漁業について説明してくれました。

北港にある大阪市漁業協同組合のオフィス

 

大阪市の漁業について説明する畑中さん

☆漁業の現況

現在、市内の漁師さんは45人、漁船は100隻ほど。

漁船が停泊している「船溜まり」が、大和田(西淀川区)、旧大野川河口(同)、伝法(此花区)、常吉(同)、港地区(港区)の5か所にあります。

港湾地域なので、「漁港」とは言わないそうです。

市漁協の南側にある常吉の「船溜まり」には漁船が数隻、係留されていました。

向こうに此花大橋が望め、すぐそばを貨物船が航行しています。

何だか地方の漁村に来たような錯覚になりました。

まさか市内でこんな景色を拝めるとは……。

常吉の「船溜まり」に係留中の漁船

漁場は大阪湾と淀川河口で、認可漁業が行われています。

イカナゴ、イワシシラス、スズキ、チヌ、ボラ、シジミ、ウナギ、ハゼ、アジなどが獲れ、イカナゴとイワシシラスは岸和田市地藏浜で水揚げされます。

ウナギ、シジミ、ハゼは市漁協に出荷し、NPO浪速魚菜の会を通して大阪料理会、キタやミナミの割烹などで供されています。

「海と川がキレイになってきています。しかしその反面、栄養分が少なくなり、魚が減っているんです。日本全国的にそうなんですが……」と畑中さん。

うーん、一長一短なんや!

市漁協が力を入れているのが加工品の販売です。

冒頭で述べた「しらすコロッケ」と「たこちゃんコロッケ」をはじめ、「しらすふりかけ」「べっこうしじみ飴」「大阪産オイルサーディン」「淀川産天然ウナギ蒲焼」「大阪産はもじゃこ天」……などなど。

 

漁協の陳列台に置かれた加工品のサンプル

 

こんな商品も販売されています

大阪木津卸売市場の「木津の朝市」や地域の商店街でのイベント、天神祭り、住吉大社初辰(はったつ)まつりなどで販売されています。

「しらすコロッケ」は塩味が効いていて、すごくうまかった!

大阪木津卸売市場で「しらすコロッケ」を販売する畑中さん

☆淀川のハゼ漁に同行

生粋の浪花っ子でありながら、なにわ伝統野菜と同じように、大阪の漁業について知らないことだらけでした。

ここまで話を聞くと、実際に漁を見てみたくなり、畑中さんに漁師さんを紹介してもらいました。

その方が御年、84歳の松浦萬治さん。

70年近くも川漁師をしている超ベテラン。

数日後、西淀川区姫島にある淀川の桟橋「松浦アリーナ」でボートに乗せてもらい、冬場が漁期のハゼ漁を取材させてもらいました。

淀川に面した「松浦マリーナ」

 

「水、めちゃめちゃキレイやろ。ほら、底見えたある」

松浦さんが川面を指さしました。

見ると、確かに透き通っており、小魚が肉眼ではっきり見えました。

以前はかなり濁っていたのに、3年前から見違えるほど水質が良くなってきたそうです。

アユの稚魚が大量に遡上しているというのですから、ホンマもんですわ。

淀川のことなら何でも知っている松浦さん

川幅が500メートルほどもある淀川大橋の付近(西淀川区、此花区)。南東方向に目をやると、梅田のビル群が遠望できます。

川の上からの眺めは何とも格別ですね。

「気持ちええやろ。ちょっと風きついから、橋の向こうに行こか」

松浦さんの気さくなお人柄にいっぺんに魅せられました。

淀川から眺めた梅田の高層ビル群

☆超ベテラン川漁師、松浦さんのハゼ漁

2本の竹筒をヒモで縛り付けた「タンポ」(長さ約90センチ)という仕掛けが川底に300個ほど沈められています。

水深は1~1.5メートル。

舳先に座っている松浦さんが引っかけ棒で水中のロープを手繰り寄せ、タンポを引き上げてから右脚で上げると、片方の竹筒からハゼが網の中に幾匹も落ちてきました。

これが淀川の伝統的な漁法。

本来はウナギを獲るためのものです。

右脚をうまく使って、ハゼを「タンポ」から網へ

 

「ほら、次から次へと獲れるわ」と松浦さん

 

大振りのハゼ。このくらいのハゼがいっぱい生息しています

 

「ウナギは4月から10月辺りまでやな。真夏の8月はたんと(たくさん)獲れるで。そのあとはハゼ。シジミは年がら年中や。タンポに入ってきた手長エビや川ガニをウナギやハゼが食べに来よる。せやから脂がついてうまいんや。チヌやスズキもおる。淀川にはたんと魚がいるんやで。あんまり知られてないのが残念やけど」

とりわけウナギは人気の的で、「淀川の天然ウナギ」として引手あまたとか。

前日に獲ったウナギを見せてくれた松浦さんは「去年は100キロほど水揚げしたで。ハゼは天ぷらやな。甘辛う煮てもうまい。昨日、14キロも獲れたわ。ええ塩梅や」と満面の笑みを。

話がオモロイ、オモロイ。

淀川の天然ウナギ。これは美味しそう!

 

前日の漁で獲れたハゼ

 

松浦さんはこの近くの西淀川区姫島生まれ。

50年前は舟が沈むくらいに豊漁が続いたそうです。

そのころは15人ほどの漁師がいたのですが、今はほんの数人。後継者は?

「20代の孫が継いでくれますわ」

よかった、よかった。

「クーラーがあったら、ハゼを持って帰ってもらえるのに」と残念そうにおっしゃった松浦さんの気持ちに感謝。

これからもお元気で、漁に励んでください!

☆もっと知ってほしい!

ハゼ漁の取材を終えて帰路に就いたとき、市漁協の畑中さんの言葉が脳裏によみがえってきました。

「大阪で獲れた魚というと、悪いイメージを持つ人が多いですよね。とくに地元の大阪人が(笑)。でも、そんなことないんですよ。もっともっと大阪の漁業を知ってもらい、大阪の魚を食べてもらい、漁獲高をアップさせたいと思っています。これからは大阪の漁業を世界に発信していくのが大きな目標です」

畑中さんの熱い胸の内がビンビン伝わってきました。

市漁協では、大阪港と河川の清掃作業、「環境と自然に触れ合ってもらいたい」と地域の子どもを招いた水辺教室など幅広い活動をしています。

市漁協の冊子(2018年発行)

 

「大阪市内の漁業って知ってる?」

この質問を友人や知人に訊くと、ほぼ全員から「ノー」「あり得ない」といった答えが返ってきました。

実際、大阪市の魚介類はまだ流通が行き届いておらず、残念ながらスーパーや小売店では見かけません。

だから、知らないのも無理はありません。

でも、いつの日か、スーパーで「大阪市〇〇区産のスズキ」「淀川河口のシジミ」といった商品を見かける日が来ると信じたいです。

今回の取材を通じて、都市型漁業が健在であるのがよくわかったから!

 

-エッセー, 大阪, 大阪ストーリー

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。