武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

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大阪ストーリー(8) 中之島、東端から西端へのママチャリ・ツアー

投稿日:2020年12月20日 更新日:

大阪ストーリー(8) 中之島、東端から西端へのママチャリ・ツアー(2019年5月)

☆中之島の東側

大阪市の中心部を東西に流れる堂島川と土佐堀川に挟まれた中之島。

長さ3キロ、最大幅370メートル。

面積が約72ヘクタールなので、甲子園球場が18個分入る広さです。

居住者がゼロと思いきや、何と人口が約1200人。

そういえば、マンションが数棟建っていますね。

住居表示は大阪市北区中之島1丁目~6丁目。

平日の午後、そんな中之島を愛用のママチャリに乗って東端から西端へ横断しました。

天神橋からループ状のスロープで下りたところが東端の剣先エリア。

字のごとく、尖がった剣の先っぽによく似ています。

川面に勢いよく水を放っていた噴水がどういうわけか、止まっていました。

10年前まで、ここに明治時代の砲艦「最上」のマストと後部艦橋が海軍記念塔として設置されていました。

子どもの頃、友達と艦橋に上って戦争ごっこをしていたのが懐かしいです。

現在、広島県呉市の「大和ミュージアム」で保存されています。

剣のように尖がった東端。左の自転車が愛用のママチャリ

西方に広がる芝生公園の緑が目にまばゆい。

平日の昼休みはサラリーマンやOLの憩いの場となり、休日になると、弁当を広げる家族連れやカップルでいっぱいになります。

超大型連休中に開催された「中之島まつり」の期間中、たいそうな賑わいでした。

ゴルフ場のような芝生公園

ヨガに取り組んでいたネパール人の留学生は「ここ、大好き。気が充実します」。

ほぉー、いっぺんヨガをしに来よ。

芝生が途切れるところからバラ園です。

この文章がアップされる頃には、色とりどりの花が咲き誇っていることでしょう。

まさに都会のオアシス、バラ園

☆中之島の中心部

バラ園の向こうに見える大阪市中央公会堂はネオ・ルネサンス様式の素晴らしい建造物です。

昼間もいいのですが、夜が最高。

照明に映え、幻想的に夜空に浮かび上がる様はため息が漏れるほどに美しい。

その情景を目にしたいがために、ぼくは時々、夜間ランニングを行っています。

そうそう、地階レストランのオムライス、絶品です。

昼どきなら、迷わず飛び込んでいたでしょう。

「大阪の宝」と言っても過言ではない中央公会堂

その裏手にある府立中之島図書館も実に風格があります。

この日、大発見しました!

正面玄関から堂々と入館できるようになっているんですね。

かつて1階両側の、牢獄に通じるような狭い入り口しかなく、受付でおばちゃんからロッカーのカギを受け取っていました。

あのカギは「昭和」そのものでした。

ヨーロッパの雰囲気をかもし出す中之島図書館

御堂筋の西側に日本銀行大阪支店がドカンと構えています。

その正面、側面、裏口をカメラで撮影していると、背後から「何をしているんですか」の声。

振り返ると、お巡りさんでした。

サングラスをかけ、ちょっと胡散臭い格好をしていたので、不審者に思われたのでしょう。

運転免許証を提示させられ、「大阪のエッセイを書くための取材ですねん」と必死で弁明。

まさか職務質問を受けるとは……。

えらいこっちゃ!

日銀大阪支店の前で予期せぬハプニング……

早々に退散。

しばらくすると、高さ200メートルを誇るツインの中之島フェスティバルタワー。

それを仰ぎ見ると、否が応でも大都会にいることを意識させられますね。

この姿勢でずっと眺めていると首を痛めますよ~(笑)。

天空にそびえる中之島フェスティバルタワー

☆中之島の西側~『泥の河』の世界へ

プラネタリウムで知られる大阪市立科学館と国立国際美術館を横に見て、なにわ筋を越えてから、少し寄り道して土佐堀川に架かる越中橋へ。

ここから東側のビル街を眺めると、妙に心が和らぎます。

この情景、好きなんです。

越中橋からの眺望

さらに西へ歩を進めると、巨大なグランキューブ大阪(大阪国際会議場)が目の前に迫ってきました。

この建物、ゴジラ・シリーズ第24作『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』(2000年)でプラズマ発電所に見立てられ、火入れ式の当日、ゴジラによって木っ端みじんにされました。

初っ端のシーンとあって、強烈に脳裏に焼き付いています。

ゴジラに破壊された(?)グランキューブ大阪

白亜の中之島センタービル(NCB)を超えれば、西端に到達します。

ここはぼくにとって一番お気に入りのスポットです。

なぜなら大阪の作家、宮本輝さんの出世作『泥の河』(1977年)の舞台だから。

1981年、小栗康平監督の手で映画化もされました。

小説、映画を問わず、大阪の文芸作品ではナンバーワンです。

最西端はこんな風情。ゴミが散らかっていますが……

「堂島川と土佐堀川がひとつになり、安治川と名を変えて大阪湾の一角に注ぎ込んでいく。その川と川がまじわるところに三つの橋が架かっていた。昭和橋と端建蔵(はたてぐら)橋、それに船津橋である」

これは小説の冒頭です。

補足すると、土佐堀川から南に木津川が流れています。

つまり、四つの川が集まっているのです。

宮本さんの幼少期、ここでお父さんがうどん屋を営んでいたそうです。

土佐堀川に架かる湊橋南詰めに『泥の河』の文学碑があるので、お見逃しなく。

小説『泥の河』の文学碑

物語は――。

昭和30年(1950年)、大衆食堂の一人息子、小学二年生の信雄と対岸に浮かぶ廓舟(くるわぶね)で暮らす同い年の喜一と姉の銀子との交友と別離が哀切感を伴って切々と綴られています。

姉弟の母親が体を売って生計を立てている厳しい現実。

敗戦から10年。まだ「戦後」は終わっていなかったのです。

『泥の河』の舞台。手前に廓舟が係留し、対岸に大衆食堂(土佐堀川)

中之島と野田(福島区)を結ぶ船津橋に立ち、西側の安治川の方を望むと、右岸に大阪市中央卸売市場本場、左岸には艀(はしけ)が接岸している倉庫群。

潮の匂いが鼻をつきます。

そこは「海の領域」です。

西側の安治川は「海の領域」

一方、東に目を転じると、堂島川がビジネス街へと誘ってくれます。

この橋を境にしてまったく対照的な風景。

小説でもそう描写されています。

それがすごく面白いです。

東側の堂島川は「ビジネス街の領域」

途中、刺激的な出来事があった中之島の「横断ツアー」。

東端からでも、西端からでも、自転車でも、徒歩でも構いません。

3キロをゆるゆる横切っていくと、きっと何か新しい発見とドラマがあります。

かくも多彩な「顔」を持っているのですから。

そして、中之島が大阪でとびきり素晴らしい景観を有している「島」であることを実感するでしょう。

そう、「スーパー・アイランド」なんです!

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。