武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

エッセー 大阪 大阪ストーリー

大阪ストーリー(1)路地は大阪の原風景

投稿日:2020年12月20日 更新日:

大阪メトロ(旧大阪市営地下鉄)のアプリ「Otomo!」が今年10月末で終了しましたが、そのアプリで「大阪ストーリー」というエッセイを2018年3月から16回続けました。

ありがたいことに、「ぜひとも読みたい!」というリクエストがあり、その連載エッセイをブログで一挙公開します。

ぼくの大阪愛がぎっしり詰まっていますよ~(^_-)-☆

☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

大阪ストーリー(1)路地は大阪の原風景 (2018年3月)

☆生家のある龍造寺町

「えらいこっちゃ!」

正月、久しぶりに生まれ育った龍造寺町に足を運ぶと、あろうことか、かつてのわが家の隣二軒が取り壊され、更地になっていました。

この原稿がアップされるころには十数年間、無人状態だった生家も同じ運命になっているやもしれず、内心、穏やかではありません。

かろうじて残っていた生家

 

龍造寺町は、大阪市中央区の谷町六丁目交差点から少し北東、つまり長堀通りの北側、谷町筋の東側の奥まったところにひっそりと佇んでいます。

最寄りの駅は地下鉄谷町六丁目駅です。大阪の背骨といわれる上町台地にあり、市内のほぼ真ん中といってもいいでしょう。

戦時中の大阪大空襲で奇跡的に被弾を免れ、明治末期から大正にかけて建てられた家が生き延びました。

風情ある街並み

 

町名は、豊臣時代に肥前佐賀の戦国大名、龍造寺政家の屋敷があったことに由来するそうです。

そこは、いわば路地の街。路地を「ろじ」と発音する大阪人はいません。

「ろぉじ」か「ろおじ」。

ぼくは「ろおーじ」と伸ばしています。

酒が入ると、「ろおーーーじ」になることも。

石畳が一部残っているところがあったり、路地の両側に建ち並ぶ本瓦葺きの長屋の前には植木鉢や花壇、それに如雨露(じょうろ)も置いてあったり。

平家の棟割長屋も健在です。

こんな石段があります

 

 

 

路地、路地、路地……の街

☆幼きころの想い出

そういう町家が密集している龍造寺町に足を踏み入れると、都会の喧騒がピタリと止み、静謐な世界に包まれます。

そして半世紀以上前の幼少期へとタイムスリップし、古き良き時代の情景がつぎつぎと蘇ってくるのです。

二階建て長屋の一階で印刷職人のオヤジさんが一升瓶を傍らに置いて夜なべ仕事に励んでいました。

町内に響くカシャン、カシャンという音。

それが今でも耳にこびりついています。

両手を伸ばせば向かい合う家の壁に届きそうなほど狭い路地で、ワンバン野球や案山子ケンパに興じていました。

生家を含む六軒を一周する駆けっこにも夢中でした。

夏になると、近所友達と一緒に床几に腰をかけて氷まんじゅうをぱくつき、「ワラビ~もち」の呼び声に胸をときめかせる。

坂の上から背伸びして眺めた水都祭の花火は夏の風物詩でした。暮れには賃つき屋(餅つき業者)がやって来て、目の前で繰り広げられる餅つきに大興奮。

駄菓子屋、紙芝居、ポン菓子、夜店……。

あゝ、涙がこぼれそうになります。

忘れられないのが銭湯での苦い体験。

懐かしの「鯉事件」の現場

 

浴室の奥にある庭の池で泳いでいる鯉を湯船に放り込んだ瞬間、番台からおっちゃんが血相を変えて飛んできた。

「こら、なにしてるんや!」

大声で怒鳴られ、いきなり頭を小突かれた。

おっちゃんは湯船で跳ね回っているアップアップ(放心?)状態の鯉をたらいですくい上げ、すばやく池に放しはった。

なんでこんなことを?

動物虐待ではありません。

鯉を湯の中に入れたら、体色がどう変わるのかを知りたかったんです。

いわば、好奇心に突き動かされただけ。

「おっちゃん、理科の実験やねん……」

理由を説明しようとしたら、言葉をさえぎられ、「はよ出て行け!」

当分、わが家は入湯禁止になり、オヤジさんにも「おまえはアホか!」と頬に強烈なピンタを張られました。

ほんま、痛い思い出や!

☆映画のロケ地にもなりました

都心部にあるレトロな町とあって、NHK大阪放送局のクルーが撮影に来ました。

テレビがそれほど普及していない昭和35年ごろ。

町内で一足早くテレビを購入したわが家に近所の人たちがどっと詰めかけ、身を縮ませてブラウン管に目をくぎ付け。

そこに家の前で掃除しているうちのおばあちゃんが映っていたのを鮮明に覚えています。

映画との関わりもあります。

物心のついていないころですが、織田作之助の原作を映画化した名作『夫婦善哉』(1955年)の実写シーンが龍造寺町で撮影されました。

続いて破天荒な人生を貫いた上方落語の噺家、初代桂春団治の物語『世にも面白い男の一生 桂春団治』(1956年)では町内に照明のやぐらが立てられ、ライトが煌々と輝いていたそうです。

わが家の裏手の家が主演俳優、森繁久彌と淡島千景の化粧直しの場所に使われたとか。

春団治が一時、龍造寺町で暮らしていたので、ロケ地にしたそうです。

「野次馬がぎょうさん詰めかけ、そらえらい騒ぎやった」とはオヤジさんの弁。

こうした濃密な思い出がびっしり詰まった龍造寺町も、ご多分にもれず、マンション化が進んでいます。

そんな中、大阪市の保存長屋があり、クリエーターの発信の場「龍造寺Lab造(みやつこ)」ができ、木の温もりのある町家の存続と再生の取り組みが行われています。

「龍造寺Lab造(みやつこ)」。文化の発信地へと変身を遂げています

 

近くの空堀をはじめ、福島、阿倍野、千林、中崎町など戦災に遭っていないところには長屋と路地が必ずあります。

コンクリートの街に変えるのが時代の趨勢なのでしょうが、「残す文化」も大切だと思います。

なにせ路地は大阪の原風景なんですからね。

龍造寺町を去るとき、立ち話をしている2人のおばあちゃんと遭遇しました。

背の低い人、見覚えがあるぞ。

向こうもこちらをチラチラ見てはります。

「こんにちは」

会釈して挨拶すると、「ほんにさぶいですなぁ」と昨日、会ったような口ぶりで返してくれはりました。

あゝ、ええ塩梅や。

-エッセー, 大阪, 大阪ストーリー

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。