「雪国」――。
川端康成の小説を彷彿とさせるカクテルがあります。
グラスのふちに白い砂糖をつけたスノースタイルと底に沈むグリーン・チェリーの美しさ。
この2つが絶妙なるアンサンブルを奏でてくれ、口にふくむと陶酔してしまいそうになる、そんなウォッカ・ベースのショート・カクテルです。
ちょうど60年前(昭和34年)、陸奥(みちのく)は山形県酒田市のバー「ケルン」の店主、井山計一さんが考案されました。
どのカクテルブックにも記載されているスタンダードの逸品。
井山さんは御年、92歳(大正15年生まれ)で、いまなおカウンター内でシェーカーを振っておられます。
日本最高齢の現役バーテンダーです。
そんな井山さんの半生を綴ったドキュメンタリー映画『YUKIGUNI』(渡辺智史監督)が今年1月から東京を皮切りに全国各地で順次上映されており、3月以降、関西で相次いで公開されます。
今のところ、3月8日~=イオンシネマ和歌山、22日~=大阪・テアトル梅田、4月6日~=神戸・元町映画館、京都シネマ の予定です。
カクテルとバーにはドラマがあります。
そのことがご本人、ご家族、関係者の証言から浮き彫りにされています。
ぼくの洋酒+バーの盟友ともいえる大阪・北新地のBAR UKのオーナー・バーテンダー、荒川英二さんも出演しています。
この人はカクテル史に詳しく、稀代のカクテルの魅力を的確に解説されています。
さらにバーをこよなく愛され、それを切り絵で表現した亡き成田一徹さんも……。
一瞬、目頭が熱くなりました。
「日本一幸せなバーテンダーです」
こう語っていた井山さんの笑顔が忘れられません。
残念ながら、ぼくはまだお店にお伺いしたことがありません。
なんとしても井山さんが作られた「雪国」を一度、味わってみたいと思っています。
バー好き、カクテル好き、人が好きな方には必見の映画です。
映画のHP:http://yuki-guni.jp/