武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

『さくら隊散る』という映画をご存知ですか~?

投稿日:2010年4月29日 更新日:

さくら隊散る
きょうからゴールデン・ウィークです。天気も良さそうなので、行楽地や観光地はさぞかし賑わうことでしょう。
平和ですね~。
GWとは全く関係ありませんが、98歳でなお映画作りに燃えている新藤兼人監督の『さくら隊散る』(1988年)という映画をご存知ですか。
ふとこの作品のことを思い出しましたので、そのエッセーをどうぞ。
平和のありがたみがよくわかります。
   *      *      *      *      *
園井恵子
何と上品な女優さん……。
阪東妻三郎主演の『無法松の一生』(1943年)で、軍人の夫を亡くし、女手ひとつで男の子を育てる吉岡夫人に扮した園井恵子を、学生時代、銀幕で初めて眼にしたとき、正直、ぼくは胸の高まりを覚えました。
その彼女が映画公開の2年後、広島で被爆し、32歳の若さでこの世を去りました。
『さくら隊散る』は、彼女が属していた戦時中の移動劇団、櫻隊の団員9人が原爆の犠牲になった事実を、再現ドラマと関係者の証言で構成したドキュメンタリー映画です。
脚本も新藤兼人、ナレーターは亡き妻の乙羽信子さん。
敗戦が濃厚になってきた44年末、大政翼賛会の肝いりで櫻隊が結成されました。
演技派俳優の丸山定夫を隊長に、各地を訪問し、暗い戦時下、娯楽に飢えていた国民を楽しませていました。
しかし団員のほとんどは戦前、社会主義的色彩の強い新劇の舞台を踏んでいたので、内心、屈辱感を覚えていたのです。
45年8月6日、広島に残っていた9人の団員が被爆しました。
5人は即死、命からがら生き延びた4人の中に園井や丸山がいました。
彼らがいかにして死を迎えたか。そのプロセスを、櫻隊結成のいきさつや当時のニュース映像を交え、この映画は淡々と伝えていきます。
しかしモノクロの再現ドラマは形容しがたいほどに惨たらしいです。脱毛し、全身にバラ色発疹が生じ、やがてのた打ち回って悶絶死。
園井恵子の最期……。
元タカラジェンヌとあって、宝塚歌劇団を象徴する『すみれの花咲くころ』の華やいだメロディーがかぶさります。
地獄絵のような映像とのギャップにぼくの心がかき乱され、涙がとめどもなくあふれ出ました。
広島から東京へ逃げ延びてきた脇役俳優の仲みどりは、東大病院で死去し、「原子爆弾傷」の第1号に認定されました。
滝沢修、宇野重吉、小沢栄太郎、杉村春子、葦原邦子……。被爆死した4人について、生前に縁のあった俳優や関係者が、彼らの思い出や無念さを赤裸々に吐露します。
そのひと言、ひと言がズシリと胸にのしかかる。
証言者の中で存命の人はもうほとんどいません。
演劇人の鎮魂歌――。それは反戦の誓いでもあると思いました。

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。