武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

ケン・ローチ監督の最新作『わたしは、ダニエル・ブレイク』

投稿日:

© Sixteen Tyne Limited, Why Not Produc@ons, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,Bri@sh Broadcas@ng Corpora@on, France 2 Cinéma and The Bri@sh Film Ins@tute 2016

社会派の名匠ケン・ローチ監督の〈怒り〉が伝わる入魂の一作。

 

社会的弱者に寄り添う姿勢は揺るがない。

 

本作ではセーフティーネットが機能していない現状を如実にあぶり出す。

 

昨年のカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞作。

© Sixteen Tyne Limited, Why Not Produc@ons, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,Bri@sh Broadcas@ng Corpora@on, France 2 Cinéma and The Bri@sh Film Ins@tute 2016

英国の地方都市で暮らすブレイク(デイヴ・ジョーンズ)は腕の立つ59歳の大工。

 

妻を亡くし、独居生活をしている。

 

頑固そうだが、非常に実直な男だ。

 

心臓発作で仕事ができなくなり、国から雇用手当をもらっている。

 

しかし就労可能と審査された途端、手当てが打ち切られ、求職活動を強いられる。

 

といっても働き口がない。

 

精一杯、行動に移すも、複雑な手続きと役所の官僚的な対応に全て阻まれる。

 

職業安定所ではパソコンで登録できず、右往左往。

 

デジタルに不慣れな者ははじき出される。

 

まさに人間疎外。

 

もはやブラック・コメディーの域だ。

 

そんな彼が2人の子を抱え、日々の生活に困窮するシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)に手を差し伸べる。

© Sixteen Tyne Limited, Why Not Produc@ons, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,Bri@sh Broadcas@ng Corpora@on, France 2 Cinéma and The Bri@sh Film Ins@tute 2016

 © Sixteen Tyne Limited, Why Not Produc@ons, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,Bri@sh Broadcas@ng Corpora@on, France 2 Cinéma and The Bri@sh Film Ins@tute 2016


自身、厳しい状況にあるのに……。

 

慈愛の精神と優しさに胸が締めつけられる。

 

彼らは必死になって生き抜いている。

 

しかも能力があるのに生かされず、空回りばかり。

 

それを自己責任で済ませていいのか。

 

そこをローチ監督はぐいぐい突いてくる。

 

80歳の監督は前作『ジミー、野を駆ける伝説』(2014)で引退表明したが、この問題は全世界共通のものと受け止め、使命感を持って臨んだ。

 

確かに熱い意気込みが感じられる。

 

ブレイクが放った言葉が脳裏から離れない。

 © Sixteen Tyne Limited, Why Not Produc@ons, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,Bri@sh Broadcas@ng Corpora@on, France 2 Cinéma and The Bri@sh Film Ins@tute 2016

 

「当たり前の権利がほしいだけ。私はそれ以上でも、それ以下でもない。人間だ」

 

これぞ魂の叫び声。

 

市井の人を描かせたら、この監督の右に出る人はいない。

 

改めてそう実感した。

 

1時間40分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆18日からシネ・リーブル梅田ほか全国ロードショー

 

(日本経済新聞夕刊に2017年3月17日に掲載。許可のない転載は禁じます)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

虚実の迷路に誘う『トスカーナの贋作』

虚実の迷路に誘う『トスカーナの贋作』

(C)Laurent Thurin-Nal (C) Fototeca ENIT 男と女。現実と虚構。本物と贋作……。 この映画は、頭がくらくらするほど面白いです(笑)。      ☆     ☆    …

極私的映画ベストテン2008(邦画編)

極私的映画ベストテン2008(邦画編)

あっと言う間に1月も5日になりました。 なんで今ごろ言う(書く)ねんとお叱りの声を受けるかもしれませんが、それを承知で、ぼくが選んだ昨年(2008年)の映画ベストテンを発表します。非常に極私的な評価で …

稀代の結婚詐欺師、『クヒオ大佐』~

稀代の結婚詐欺師、『クヒオ大佐』~

今、公開中の日本映画『クヒオ大佐』はちょっと拾いモノでした。映画エッセーをどうぞ。  *     *     *     *     *     * 人を騙すのは良くないことだが、詐欺師がいかにして善 …

希望に向かって少年たちが疾駆する~『トラッシュ! この街が輝く日まで』

希望に向かって少年たちが疾駆する~『トラッシュ! この街が輝く日まで』

これは観させる映画でした。   子供が主人公の映画は、ともすれば嫌味っぽくなりがちですが、本作はビンビン心に響きました。   ☆     ☆     ☆     ☆     ☆   …

プロモーション・ムービー『映画の街、なんば』、日経新聞の告知記事、自分で書きました~(^_-)-☆

プロモーション・ムービー『映画の街、なんば』、日経新聞の告知記事、自分で書きました~(^_-)-☆

きのうの日経新聞夕刊、「関西タイムライン」欄にぼくの寄稿が載りました。 映画の発祥地についてずっと訴えていることですが、見出しの横に「武部好伸氏寄稿」とドカーンと銘打たれるとはびっくりポンでした~(^ …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。