(C)Laurent Thurin-Nal (C) Fototeca ENIT
男と女。現実と虚構。本物と贋作……。
この映画は、頭がくらくらするほど面白いです(笑)。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
イタリア・トスカーナ地方の田舎町を彷徨う1組のカップルを追ったドラマ。
甘いラブ・ストーリーを想起するが、イラン映画界を代表するアッバス・キアロスタミ監督の手にかかると、摩訶不思議な世界に変わってしまう。
虚実の中で揺れ動く男女の心模様を巧みに紡ぎ取った刺激的な映画。
理性と感性がくすぐられる。
芸術における贋作についての書物を著し、トスカーナの町で講演した英国人作家ジェームズ・ミラー(ウィリアム・シメル)。
その講演を聴きに来た、地元で骨董品のギャラリーを営むフランス人女性(ジュリエット・ビノシェ)。
名は明かされない。
作家のファンであろう彼女が近隣の村へ彼をドライブに誘う。
初対面同士のはずなのに、2人の会話があまりにも親しげ。
女性は自分の価値観を遠慮なく主張し、作家の方も負けじと芸術論を展開させる。
旧知の仲なのか。
この辺りから監督の術中に嵌っていく。
その会話が知的で、非常に面白い。
ジェームズの持論は「本物の価値を証明する意味で、贋物にも価値がある」。
そしてダ・ヴィンチの傑作「モナ・リザ」は、モデルになった夫人の複製に過ぎないと言い切る。
こうしたやり取りが伏線となり、ゲーム感覚で2人は夫婦を演じ始める。
そのうち現実と虚構の区別がつかなくなる。
曖昧さの向こうに真実があるのだろうか。
いや、真実なんてないのかもしれない。
映画そのものがフィクションなのだから。
そんな監督の魂胆(意図)が見え隠れする。
妻を強調する女性に対し、男は困惑するばかり。
贋作を認めているのに、行動が伴わず、偽善めいているところがおかしい。
女性が胸につけているカゲロウのペンダントが気になった。
1日だけの命というのが妙に意味深で……。
1時間46分。
★★★★
(日本経済新聞2011年3月5日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
☆3月5日(土)より、梅田ガーデンシネマにてロードショー!
4月9日(土)より、京都みなみ会館
5月、神戸アートビレッジセンターにて
虚実の迷路に誘う『トスカーナの贋作』
投稿日:2011年3月8日 更新日:
執筆者:admin