これは観させる映画でした。
子供が主人公の映画は、ともすれば嫌味っぽくなりがちですが、本作はビンビン心に響きました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
陰謀渦巻く中、子供たちが勇気を持って街を駆け抜け、希望の灯をともした。
ブラジル・リオデジャネイロ近郊のスラムを舞台に繰り広げられるとびきりスリリングな物語。
社会問題を絡ませ、一味違った娯楽作に仕上がっている。
主人公はゴミ山をあさって暮らしている3人の少年たち。
彼らは米国人のジュリアード神父(マーティン・シーン)に保護されているとはいえ、非常に厳しい環境の中で生きている。
サッカーW杯、来年の五輪開催などで経済的発展が著しいブラジルの現実を容赦なく突きつける。
強烈な格差社会を冒頭で印象づけてから、ドラマが動き出す。
ある日、少年がゴミの中から財布を見つけた。
それが発端だ。
開けると、現金、身分証明書、アニマルロトのカード、少女の写真、コインロッカーの鍵などが入っている。
財布に隠された謎を解明すべく3人が行動に移すや、警察の手がじわじわと迫ってくる。
その追走劇の何と凄まじいこと。
一難去ってまた一難。疾走感を伴い、息をもつかせぬ展開に圧倒された。
そこには活劇の要素が全て盛り込まれている。
スティーヴン・ダルドリー監督はデビュー作「リトル・ダンサー」と同様、本作でも苦悶しながら、成長する少年の姿を繊細に活写した。
オーディションで選ばれた無名の3少年が銀幕の中で弾け、生き生きしている。
絶対に諦めない気概にも共感できた。
フェデリコ刑事(セルトン・メロ)の陰湿な執拗さが彼らをより輝かせた。
ピュアな子供と汚れた大人。
この明快な二極構図が映画の核。
ただ、警察を悪の権化として描き過ぎた。
「正しいことをしたい」
天使のような少年たちの心が、弱者の視点に立つ監督の眼差しと重なった。
英語至上主義に背を向け、現地語のポルトガル語で通した点も高く評価したい。
1時間54分。★★★★
(日本経済新聞2015年1月9日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)