武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

妻への疑惑~風格あるスパイ・ミステリー『マリアンヌ』

投稿日:

ブラッド・ピットとマリオン・コティヤール。

 

円熟味を増してきた実力派俳優の共演に興味がそそられる。

 

最愛の妻が謎めいてくるという夫婦の物語。

 

第二次大戦を舞台にした異色スパイ映画としても楽しめる。

© 2016 Paramount Pictures, All Rights Reserved.

1942年、親独のヴィシー政権下のモロッコ・カサブランカ。

 

英国の諜報員としてカナダ軍パイロットのマックス(ピット)がパラシュートで砂漠に舞い降りる。

 

意表をつく冒頭シーンだ。

 

現地で落ち合ったのがフランスのレジスタンス、マリアンヌ(コティヤール)。

 

初対面の2人は長年連れ添った夫婦を演じ、ドイツ大使暗殺の使命を遂行する。

 

街をそぞろ歩くカップル。

© 2016 Paramount Pictures, All Rights Reserved.

その姿が名作『カサブランカ』(1942年)のハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンを彷彿とさせ、往年のハリウッド映画の空気が充満する。

 

任務上の相方とは決して恋に落ちない。

 

その鉄則を忘れ、互いに愛の炎を燃え盛らせる。

© 2016 Paramount Pictures, All Rights Reserved.

 

砂嵐の中で結ばれる場面は不吉の前兆か。

 

非常に意味深である。

 

彼らはロンドンで結婚し、愛娘を授かる。

© 2016 Paramount Pictures, All Rights Reserved.

 

幸せの絶頂期にマックスが上司から衝撃的なことを聞かされる。「奥さんはドイツの二重スパイだ」。この瞬間、映画のトーンが一変する。

 

妻は何者なのだ?

 

彼女への深い愛と疑惑、さらに国への忠誠心の間で苦悶する夫。

 

理性的な男が感情的になっていくドラマチックな動きに引きつけられる。

 

ロバート・ゼメキス監督はヒッチコックばりにサスペンス色を濃厚に出した。

 

大胆な前半とは一転、内面を重視した細やかな後半の演出が光る。

 

ピットとコティヤールは撮影と同時進行で役柄の関係を築いていったという。

© 2016 Paramount Pictures, All Rights Reserved.

© 2016 Paramount Pictures, All Rights Reserved.


 

道理で心の機微が演技に如実に反映されていた。

 

虚構の世界から芽生えた愛。

 

それでも真の愛を信じようとした2人。

 

正真正銘、ラブストーリーだった。

 

2時間4分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆2月10日(金)、TOHOシネマズ梅田、他全国ロードショー

 

(日本経済新聞夕刊に2017年2月10日に掲載。許可のない転載は禁じます)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

ちょっぴりシニカルなお伽噺~スウェーデンの喜劇映画『100歳の華麗なる冒険』

ちょっぴりシニカルなお伽噺~スウェーデンの喜劇映画『100歳の華麗なる冒険』

こんなお爺さんがおれば、オモロイなぁ~(^^♪   クスッと笑ってしまう、そんな映画です。   ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆      …

旬の俳優、トム・ハーディが1人2役で見せる犯罪映画~『レジェンド/狂気の美学』

旬の俳優、トム・ハーディが1人2役で見せる犯罪映画~『レジェンド/狂気の美学』

○C2015 STUDIOCANAL S.A. ALL RIGHTS RESERVED. トム・ハーディ。 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『レヴェナント 蘇えりし者』などで圧倒的な存在感を示 …

2017年の映画ベストテンを発表~!!

2017年の映画ベストテンを発表~!!

今年も映画ベストテンの時期になってきました。 「おおさかシネマフェスティバル」用に選出しました。 結構、悩んだ……((+_+)) 外国映画の10位に選んだ『リュミエール!』は映画の原点へのリスペクトで …

異色学園ドラマ~『桐島、部活やめるってよ』

異色学園ドラマ~『桐島、部活やめるってよ』

こういうドラマもありなんや。   新鋭小説家、朝井リョウの原作の面白さもさることながら、映画としても十分、パワーのある作品でした。   ぼくの拙稿をどうぞ。        …

あの未解決の劇場型事件を題材にした映画『罪の声』(30日公開)

あの未解決の劇場型事件を題材にした映画『罪の声』(30日公開)

食品会社をターゲットにし、日本国中を震撼させた劇場型犯罪。 あの未解決事件から35年が経ちました。 当時、子どもだった脅迫テープの声の主と事件を再検証する新聞記者が「闇」の真相に迫っていく……。 その …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。