武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

浮遊感漂う岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』

投稿日:

©RVWフィルムパートナーズ

©RVWフィルムパートナーズ

 

ごく平凡な女性が摩訶不思議な世界に引き込まれる「現代の寓話」といってもいい。

 

内容は極めてシリアスで、スリリングな場面が散りばめられているのに、岩井俊二監督の独特な感性がどこか儚げで夢想的な映像を紡ぎ出した。

 

23歳の七海(黒木華)は派遣教員で生計を立てている。

 

SNSで知り合った男性とすんなり結婚したものの、それを機に想定外の事態に巻き込まれる。

 

希薄な人間関係から生じる危うさが物語に通底している。

 

象徴的なのが、結婚式で親族の少ない彼女のために偽装家族を提供するサービス。

 

事細かにその様子が映し出され、思わず瞠目してしまった。

 

その代理出席を斡旋する何でも屋、安室(綾野剛)の胡散臭さと妖しさが際立つ。

 

この男もネットで七海と知り合っていた。

 

誠意を見せながら、全て金儲けにつながっている。

 

〈社会の闇〉そのものだ。

 

そんな安室に純真な七海が都合よく(安易に?)転がされ、やがて強烈な個性を放つ真白(Cocco)と出会う。

 

彼女は非常にエキセントリックで、なぜか生き急いでいる。

 

浮遊する七海が真白にぐいぐい引きつけられる。

 

ようやく重しを見つけた喜びが発散する。

 

純白のウェディングドレスを身につけた2人の痛々しいほどの華やかさに胸を突かれた。

 

俳優3人のコラボレーションが素晴らしい。

 

黒木の淡さ、綾野の軽妙さ、ミュージシャンCoccoの悲壮感伴う凄さ。

 

役柄と見事にマッチしていた。

 

自然光を生かした印象派のような眩い映像、しなやかに漂うカメラワーク、スケッチ風の描写……。

 

どこをとっても「岩井ワールド」を満喫でき、時間の経過を全く感じさせない。

 

日常がいとも簡単に壊れる現実社会。

 

その中で揺らぐ女性の生き方をポエジー風に綴った瀟洒な映画だった。

 

3時間

 

★★★★(見逃せない)

 

☆全国で公開中

 

(日本経済新聞夕刊に2016年4月1日に掲載。許可のない転載は禁じます)

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。