自分の居場所を失った時、はてどうすべきか?
ドラマでは新天地に赴き、再出発するケースが多い。
本作はその典型例。題材が映画のシナリオとあって俄然、興味を引きつけられる。
温かい作風も心地よい。
ハリウッドの脚本家キース(ヒュー・グラント)は15年前、感動のヒット作を生み出し、オスカーにも輝いた。
その後はしかし、泣かず飛ばず。
かつての栄光、今いずこ……。
妻にも逃げられ、息子に会えない。
どん底状態にあるこの中年男が、「食う」ために東部の田舎町にある大学でシナリオの書き方を教える。
あゝ、都落ち。
「でもしか講師」丸出しの主人公がこの地でいかに変身するのか。
その姿をマーク・ローレンス監督が知的なユーモアを交え、軽やかに綴っていく。
監督自ら執筆した脚本が実によくこなれている。
「スター・ウォーズ」オタクの男子学生、色仕掛けで迫る小悪魔的な女子学生、家族思いの学科長(J・K・シモンズ)……。
学生も教授陣も個性派ぞろいだ。
キーパーソンは、年の差を気にせずに受講するシングルマザーのホリー(マリサ・トメイ)。
人生の辛酸を舐めてきたはずなのに、底抜けに明るい。
トメイの感情豊かな演技が素晴らしい。
何事も天性の才能で決まると考えるキース。
それに対し、一生懸命努力すれば、必ず報われると説くホリー。
相反する価値観のぶつかり合いが映画の軸となり、重しにもなっていた。
キースは時に過去の名声をひけらかし、虚勢を張る。
そんな彼の口からウィットに富んだシニカルな言葉がポンポン飛び出す。
その多くが映画通の心の琴線に触れる台詞。
こんな役どころはグラントの真骨頂だ。
自分が何に向いているのか。
別に若い時でなくても、それがわかればしめたもの。
結末は予定調和的だったけれど、納得できた。
1時間47分
★★★★(見逃せない)
☆大阪ステーションシティシネマほかで公開中
(日本経済新聞夕刊に2015年11月20日に掲載。許可のない転載は禁じます)