マルセル事件……。
年配者の方は鮮明に覚えてはるでしょうね。
1968年、ロートレック展を開催中の京都国立近代美術館から名画『マルセル』が盗まれ、8年後(76年)にその絵画が無傷のまま見つかりました。
…
展示会の主催は読売新聞。
なのに、絵画発見の報が朝日新聞に入り、読売は特オチ……。
惨めの極致!!
この事件を取材記者の目でドキュメンタリー小説としてまとめた本が出ました。
『マルセル嬢誘拐』(新幹社)。
筆者は浅見溪さん。
これはペンネームで、本名は藤田昭彦さん。
元毎日新聞の敏腕サツ記者で、京都支局時代にマルセル事件を猟犬のごとく追っかけていたそうです。
ぼくが教えている関西大学社会学部で2年前まで非常勤講師をされておられ、一緒に飲みに行ったとき、「マルセルを何とか本にしたい」とよく言うてはりました。
それが実現し、すごくうれしいです。
藤田さんから謹呈された本を読み進めていますが、とにかく詳細に記されており、めちゃめちゃ面白い。
当時の空気感が一気に押し寄せてきます。
同じ題材を、作家の高樹のぶ子さんが『マルセル』(2012年)という題で出版化してはります。
でも、切り口が全く違います。
新聞記者独特の筆致にグイグイ引き込まれています。