こんな姉と弟がいてもええやん。
そう思わせる映画でした。
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33歳の弟と40歳の姉。
顔が全く似ていない。
20年来、古びた一軒家で2人だけで同居している。
共にかなり不器用な人間。
この設定だけで自然と引き込まれる。
映画初共演の向井理と片桐はいりが独特なアンサンブルを奏でてくれた。
原作は脚本家、西田征史の同名小説。
それを自身が舞台演出し、今回、初監督作品として映画化した。
全編、ワンカット・ワンシーンの長回しが多いのはそのためなのだろう。
弟の進は「ありがとうの香り」を探求する真面目な調香師、こだわりの強い姉より子は眼鏡店の従業員。
普段は文句ばかり言い合っているけれど、一緒にスーパーに買い物に出かけたり、遊園地ではしゃいだりと驚くほど仲がいい。
年齢を考えると、歪な感じがせんでもない。
それに痛ましくも思える。
彼らはしかし、純朴ゆえ、世間体を気にせず、マイペースで悠然と暮らしている。
その穏やかな空気感とそこはかとなく醸し出される気遣いが実に心地よい。
2人の距離感を優しさで包み込んだ演出も手堅い。
ただ、もう少しテンポにメリハリをつけてほしかった。
この姉弟に恋愛のチャンスが巡ってくる。
進の相手は絵本作家を目指す薫(山本美月)、より子の方は店に来るコンタクトレンズの営業マン浅野(及川光博)。
弟は元恋人(麻生久美子)を忘れられず、姉は恋愛恐怖症に陥っている。
少年、少女丸出しの行動がもどかしくて、いじらしい。
緩やかな軋みを伴って描かれる恋の顛末。
より子が浅野とデートする場面の切なさは胸に沁みた。
タイミングの悪さが際立つ進にも共感できる。
気づけば、彼らを愛おしく思えてきた。
姉と弟の映画と言えば、市川崑監督の名作『おとうと』(1960年)を思い浮かべる。
観終わった後、社会がすっかり変わったことを痛感した。
1時間54分。
★★★★(見逃せない)
☆25日から大阪ステーションシティシネマほかで公開
(日本経済新聞2014年10月24日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)