この映画はきっと心に響くと思います。
1か月以上前に試写で観ましたが、今でも余韻が残っています。
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得も言われぬ居心地の良い場所が、偏見と差別によっていとも簡単に瓦解する。
その惨たらしさを本作はストレートにえぐる。
ゲイのカップルと不遇な男の子。
彼らが奏でる哀しくも温かいアンサンブルがいつまでも耳から離れない。
ショーバーで女装し、艶っぽく歌うルディ(アラン・カミング)とゲイであることを隠して弁護士を務めるポール(ギャレット・ディラハント)が恋に落ちる。
今では考えられないが、1979年の米国は同性愛に対して極めて不寛容だった。
そんな中、愛を育む2人の前にダウン症の少年マルコ(アイザック・レイヴァ)が現れる。
母親が薬物依存症で、まともに養育されておらず、常に孤独だ。
同情が多分にあったにせよ、チョコレート・ドーナツが大好きなマルコの純真さが、挑発的で危険な匂いを放つルディとドライなポールの心を丸くさせる。
アウトサイダー(異端分子)と見られていた彼ら3人が寄り添い、慈愛に満ち溢れた「家族」を構築する。
映画は、その過程を実に優しい眼差しで見つめる。
後半はしかし、様相が一変する。
裁判ドラマと化し、過酷な現実を容赦なく映し出す。
人間性を見ずして、性的志向に基づく偏狭な価値観に支配される法廷に胸が締め付けられた。
実話の映画化。
ともすれば感傷的になりやすい内容だ。
トラヴィス・ファイン監督は彼らがマイノリティー(少数派)である事実をありのままに描き、それを大幅にそぎ落とした。
感情の起伏を自在に操るカミングの演技が素晴らしい。
歌唱力も十分。
とりわけルディの切なる気持ちを託したボブ・ディランの名曲「I Shall Be Released」には魂が震えた。
「I」を「We」に変えての熱唱……。
日本では虐待や不適的養育などで家族の愛情をもらえない子供が増えている。
その現実を突きつける映画としても価値があった。
1時間37分
★★★★(見逃せない)
☆5月10日からシネ・リーブル梅田、京都シネマ、5月24日シネ・リーブル神戸 にて公開。
(日本経済新聞2014年5月8日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)