武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

偏見と差別が「家族」を壊す~アメリカ映画『チョコレートドーナツ』

投稿日:2014年5月9日 更新日:

 

 

©2012 FAMLEEFILM, LLC

この映画はきっと心に響くと思います。

 

1か月以上前に試写で観ましたが、今でも余韻が残っています。

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

得も言われぬ居心地の良い場所が、偏見と差別によっていとも簡単に瓦解する。

 

その惨たらしさを本作はストレートにえぐる。

 

ゲイのカップルと不遇な男の子。

 

彼らが奏でる哀しくも温かいアンサンブルがいつまでも耳から離れない。

 

ショーバーで女装し、艶っぽく歌うルディ(アラン・カミング)とゲイであることを隠して弁護士を務めるポール(ギャレット・ディラハント)が恋に落ちる。

 

今では考えられないが、1979年の米国は同性愛に対して極めて不寛容だった。

 

そんな中、愛を育む2人の前にダウン症の少年マルコ(アイザック・レイヴァ)が現れる。

 

母親が薬物依存症で、まともに養育されておらず、常に孤独だ。

 

同情が多分にあったにせよ、チョコレート・ドーナツが大好きなマルコの純真さが、挑発的で危険な匂いを放つルディとドライなポールの心を丸くさせる。

 

アウトサイダー(異端分子)と見られていた彼ら3人が寄り添い、慈愛に満ち溢れた「家族」を構築する。

 

映画は、その過程を実に優しい眼差しで見つめる。

 

後半はしかし、様相が一変する。

 

裁判ドラマと化し、過酷な現実を容赦なく映し出す。

 

人間性を見ずして、性的志向に基づく偏狭な価値観に支配される法廷に胸が締め付けられた。

 

実話の映画化。

 

ともすれば感傷的になりやすい内容だ。

 

トラヴィス・ファイン監督は彼らがマイノリティー(少数派)である事実をありのままに描き、それを大幅にそぎ落とした。

 

感情の起伏を自在に操るカミングの演技が素晴らしい。

 

歌唱力も十分。

 

とりわけルディの切なる気持ちを託したボブ・ディランの名曲「I Shall Be Released」には魂が震えた。

 

「I」を「We」に変えての熱唱……。

 

日本では虐待や不適的養育などで家族の愛情をもらえない子供が増えている。

 

その現実を突きつける映画としても価値があった。

 

1時間37分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆5月10日からシネ・リーブル梅田、京都シネマ、5月24日シネ・リーブル神戸 にて公開。

 

(日本経済新聞2014年5月8日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

ケン・ローチ監督の素敵なプレゼント、『エリックを探して』~♪

ケン・ローチ監督の素敵なプレゼント、『エリックを探して』~♪

©Canto Bros. Productions, Sixteen Films Ltd, Why Not Productions SA, Wild Bunch SA, Channel Fou …

「生」を見つめる女性のドラマ~『サラの鍵』

「生」を見つめる女性のドラマ~『サラの鍵』

昨夜、某洋画映画会社の有名宣伝マン、Hさんの送別会が大阪・心斎橋の日航ホテル大阪で開かれました。 100人もの方が集まり、いかにHさんに人徳があったのかを実感した次第です。 昨年11月、ちょかBand …

『3時10分、決断のとき』~理屈抜きに面白い西部劇~!!

『3時10分、決断のとき』~理屈抜きに面白い西部劇~!!

 これは面白かった。日経新聞の映画評で迷うことなく★★★★★をつけました。絶対に満足しますよ~!   *     *     *     *     *     * 久々の本格西部劇。銃弾が飛び交い、 …

クストリッツァが紡ぎ出す熱い、熱い純愛物語~『オン・ザ・ミルキー・ロード』

クストリッツァが紡ぎ出す熱い、熱い純愛物語~『オン・ザ・ミルキー・ロード』

天衣無縫な鬼才エミール・クストリッツァ監督の鮮烈なるラブ・ロマンス。 現実とファンタジーをミックスさせた奇想天外な物語に目が釘付けになり、バルカンの強烈な匂いがいつまでも余韻に残った。 (C)2016 …

ジャジャーン、今年の映画ベストテン発表(日本映画)~♪♪

ジャジャーン、今年の映画ベストテン発表(日本映画)~♪♪

今年も余すところあとわずか。 少し早いですが、お正月映画も出そろったことですので、この1年間に公開された映画のベストテンを決めました。 いつもながら独断と偏見に満ちていますが~(笑) 今日は〈日本映画 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。