武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

クストリッツァが紡ぎ出す熱い、熱い純愛物語~『オン・ザ・ミルキー・ロード』

投稿日:

天衣無縫な鬼才エミール・クストリッツァ監督の鮮烈なるラブ・ロマンス。

現実とファンタジーをミックスさせた奇想天外な物語に目が釘付けになり、バルカンの強烈な匂いがいつまでも余韻に残った。

(C)2016 LOVE AND WAR LLC

のどかな田舎の村。

ガチョウの群れが豚の血の入った桶に飛び移り、行水する。

そんな度肝を抜くコミカルなシーンから物語が始まる。

実はこの地域、隣国との激戦地。

ボスニア内戦を想起させるが、架空の国という設定。

銃弾が飛び交っているのに、村人がいたって呑気なのがすごく可笑しい。

戦火の中、ロバに乗り、村までミルクを運ぶ中年男が主人公のコスタ。

ハヤブサを右肩に乗せ、クマとじゃれ合い、ヘビに助けられる。

動物と交流できるこの心優しい人物をクストリッツァ自身が熱く演じる。

そんなコスタがイタリア人女優モニカ・ベルッチ扮する絶世の美女と恋に落ちる。

(C)2016 LOVE AND WAR LLC

しかし彼女はミルク屋の長男の花嫁になる女性。

三角関係がもつれるのかと思いきや、想定外の展開に。

何と多国籍軍の特殊部隊が急襲してきたのだ。

2人は手に手を取って、特殊部隊の追撃から逃げまくる。

(C)2016 LOVE AND WAR LLC

一難去ってまた一難。

もはや活劇と化し、映像がますますエネルギッシュに、かつ濃密になってくる。

コスタと花嫁の家族は共に戦争の犠牲者。

2人の逃避行は諦観していた人生を取り戻すための行動なのだ。

それなりに齢を重ねた男女だからこそ、意味がある。

(C)2016 LOVE AND WAR LLC

喜劇と悲劇、詩情と暴力、生と死。

こうした二元性にユーモラスでシュールな味付けを添え、独特な世界観を構築する。

その演出力は際立っている。

(C)2016 LOVE AND WAR LLC

旧ユーゴスラビアの半世紀の歴史を網羅した『アンダーグラウンド』(1995年)に象徴されるごとく、監督はずっと紛争を描いてきた。

それが一転、こんな素晴らしい「愛の寓話」を紡ぎ出した。

脱帽! 

2時間5分

★★★★★(今年有数の傑作)

☆大阪ステーションシティシネマ/シネマート心斎橋/TOHOシネマズ西宮OSにてロードショー!
(9/23~)シネ・リーブル神戸 (順次)京都シネマ

(日本経済新聞夕刊に2017年9月15日に掲載。許可のない転載は禁じます)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

飲むのはほどほどに 日本映画『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』

飲むのはほどほどに 日本映画『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』

       (C)2010シグロ/バップ/ビターズ・エンド 忘年会の季節です。 お酒を飲む機会がめっきり多くなってきました。 昨夜は、読売新聞時代の2人の大先輩(ともにI氏)と一献傾けました。 飲ん …

特別展示会『高倉健』&キネマ旬報に掲載された拙著の書評~(^_-)-☆

特別展示会『高倉健』&キネマ旬報に掲載された拙著の書評~(^_-)-☆

ゴールデンウイークの後半突入。 今日の午後は梅田から阪神電車に乗り、阪神vsDeNA戦が気になる(?)甲子園を通りすぎて香櫨園に向かいました。 西宮市大谷記念美術館で開催中の追悼特別展『高倉健』を鑑賞 …

ディカちゃん+ブラピ共演のタランティーノ監督最新作『ワンス・アポ・アタイム・イン・ハリウッド』

ディカちゃん+ブラピ共演のタランティーノ監督最新作『ワンス・アポ・アタイム・イン・ハリウッド』

アメリカ映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(30日公開) 昔々、ハリウッドで……、といっても、大昔ではなく、ちょうど半世紀前の1969年の物語。 アポロ11号による人類初の月面着陸、 …

尼崎を舞台にしたけったいな家族映画『あまろっく』!

尼崎を舞台にしたけったいな家族映画『あまろっく』!

『あまろっく』--。 尼崎を舞台にした、何ともけったいなファミリー映画です。 町工場を営む65歳の父親(笑福亭鶴瓶)が、20歳のうら若き女性(中条あやみ)と再婚! 39歳の独身娘はどうしたらええねん! …

17日から全国公開~ドキュメンタリー映画『ヒロシマへの誓い サーロー節子とともに』

17日から全国公開~ドキュメンタリー映画『ヒロシマへの誓い サーロー節子とともに』

ずっと気になっていたドキュメンタリー映画『ヒロシマへの誓い サーロー節子とともに』がいよいよ17日(土)から全国で公開されます。 サーロー節子さんは13歳の時、広島で被爆し、カナダのトロントを拠点に反 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。