先日、発表されたアカデミー賞の作品賞を受賞した映画です。
厳しい物語ですが、観ておきたいです。
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奴隷制度。
米国の負の歴史に鋭く切り込んだ。
こんなおぞましい出来事が実際にあったのかと驚いた。
絶望的な状況下、希望の灯を絶やさず、必死に生き抜いた主人公の熱き気概に胸が打たれる。
リンカーンの奴隷解放宣言が出される前の1841年。
「自由黒人」として北部の町で妻子と幸せに暮らしていたバイオリン奏者ソロモン・ノーサップが興行主に騙され、奴隷に売られる。
そして12年間も南部の農園で酷使され続けた。
この悪夢の体験を綴った本人の回想録をアフリカ系英国人スティーヴ・マックィーン監督が使命感を持って映画化した。
米国人監督ならここまで踏み込めなかったと思う。
善良な市民がある日突然、財産、身分、名前を奪われ、地獄に突き落とされる。
しかも知性と教養があるだけに、かえって素性を明かせない。
その筆舌し難い苦しみを、主演のキウェテル・イジョフォーが高潔さと気品を醸し出し、ソロモンを今に甦らせた。
観ているうち、状況は違えども、ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害を思い浮かべた。
ただ、寒々しい強制収容所とは異なり、農園の風情はいたってのどか。
冷酷な農園主エップス(マイケル・ファスベンダー)に弄ばれる奴隷女パッツィー(ルピタ・ニュンゴ)が葉っぱで人形を作る場面は牧歌的にすら思えた。
だからこそ白人が振る舞う所業の陰湿さが際立つのだ。
とりわけソロモンが長時間、木の枝に吊るされるシーンは強烈だった。
その周りでみな普通に仕事しており、子供たちが遊んでいる。
見て見ぬふり。
現代社会にはびこる無関心さと重なり、体が固まった。
人道的に決して許されない世界。
映画はそれを告発するのではなく、事実をぐいぐい突きつける。
目を背けず、真摯に受け止めたい。
2時間13分
★★★★(見逃せない)
☆全国で公開中
(日本経済新聞2014年3月7日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)