武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

ある日突然、地獄へ突き落とされる~オスカー受賞作『それでも夜は明ける』

投稿日:2014年3月9日 更新日:

先日、発表されたアカデミー賞の作品賞を受賞した映画です。

 

厳しい物語ですが、観ておきたいです。

 

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

© 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

奴隷制度。

 

米国の負の歴史に鋭く切り込んだ。

 

こんなおぞましい出来事が実際にあったのかと驚いた。

 

絶望的な状況下、希望の灯を絶やさず、必死に生き抜いた主人公の熱き気概に胸が打たれる。

 

リンカーンの奴隷解放宣言が出される前の1841年。

 

「自由黒人」として北部の町で妻子と幸せに暮らしていたバイオリン奏者ソロモン・ノーサップが興行主に騙され、奴隷に売られる。

 

そして12年間も南部の農園で酷使され続けた。

 

この悪夢の体験を綴った本人の回想録をアフリカ系英国人スティーヴ・マックィーン監督が使命感を持って映画化した。

 

米国人監督ならここまで踏み込めなかったと思う。

 

善良な市民がある日突然、財産、身分、名前を奪われ、地獄に突き落とされる。

 

しかも知性と教養があるだけに、かえって素性を明かせない。

 

その筆舌し難い苦しみを、主演のキウェテル・イジョフォーが高潔さと気品を醸し出し、ソロモンを今に甦らせた。

 

観ているうち、状況は違えども、ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害を思い浮かべた。

 

ただ、寒々しい強制収容所とは異なり、農園の風情はいたってのどか。

 

冷酷な農園主エップス(マイケル・ファスベンダー)に弄ばれる奴隷女パッツィー(ルピタ・ニュンゴ)が葉っぱで人形を作る場面は牧歌的にすら思えた。

 

だからこそ白人が振る舞う所業の陰湿さが際立つのだ。

 

とりわけソロモンが長時間、木の枝に吊るされるシーンは強烈だった。

 

その周りでみな普通に仕事しており、子供たちが遊んでいる。

 

見て見ぬふり。

 

現代社会にはびこる無関心さと重なり、体が固まった。

 

人道的に決して許されない世界。

 

映画はそれを告発するのではなく、事実をぐいぐい突きつける。

 

目を背けず、真摯に受け止めたい。

 

2時間13分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆全国で公開中

 

(日本経済新聞2014年3月7日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

昭和の一断面~映画『11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』

昭和の一断面~映画『11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』

三島由紀夫の映画が今日から封切られています。 いろんな意味で、興味深い作品でした。 ぼくには非常に懐かしい事件でしたが……。      ☆     ☆     ☆     ☆     ☆ © …

ABC『おは土』で喋ってきました~(^_-)-☆

ABC『おは土』で喋ってきました~(^_-)-☆

先ほどABCテレビ『おはよう朝日土曜日です』に出演し、夏休みオススメ映画を解説してきました~ 出演直前、世界の福本豊さんにご挨拶でき、一気にテンションがアップ シャンプーハットのお2人さんとの絡みがめ …

ジョン・レノンの原風景~映画『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』

ジョン・レノンの原風景~映画『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』

秋が深まってきました。 今春卒業し、大阪の出版社で働いている教え子と先日、キタにあるビートルズのライブハウス『キャバーン・クラブ』に足を運びました。 近況を語り合っているうち、22歳の彼がビートルズに …

戦後処理を個人で続けてきた人物の軌跡~ドキュメンタリー映画『クワイ河に虹をかけた男』(19日、公開)

戦後処理を個人で続けてきた人物の軌跡~ドキュメンタリー映画『クワイ河に虹をかけた男』(19日、公開)

『戦場にかける橋』で知られる、第二次大戦中の泰緬鉄道建設工事での悲劇。   その贖罪と鎮魂・慰霊の活動を続けてきた元陸軍憲兵隊通訳、永瀬隆さんに20年間、密着取材したドキュメンタリー映画『ク …

旧ソ連版の忠犬ハチ公物語~日露合作映画『ハチとパルマの物語』(28日公開)

旧ソ連版の忠犬ハチ公物語~日露合作映画『ハチとパルマの物語』(28日公開)

旧ソ連時代の1977年から2年間、モスクワ国際空港の滑走路で飼い主を待ち続けていたワンちゃんがいてたんですね。 パルマというジャーマン・シェパード。 まさにソ連版の忠犬ハチ公物語~❗ 向 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。