こういう歴史もの、大好きです。
200年前の世界をしっかり再現しています。
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贅を極め、悲劇的な最期を迎えたマリー・アントワネット。
激動の最中、この王妃の心模様を1人の娘の視点から見据える。
フランス革命(1789~99年)の裏面をあぶり出した興味深い歴史ドラマだ。
主人公は王妃(ダイアン・クルーガー)のために書物を朗読する利発な少女シドニー(レア・セドゥ)。
忠誠心と純愛を支えに健気に生きるが、したたかな面を覗かせ、そこに親近感を覚えた。
王妃の浮世離れした暮らしぶりは想像以上だ。
しかも移り気とあって、待臣たちを翻弄させる。
が、内実はいたって孤独。
圧倒的な存在感を放つクルーガーの濃い演技が冴える。
貧窮を強いられていた民衆が蜂起し、革命が起きるが、宮廷の日常は変わらない。
物語はその日から4日間の出来事を追う。
旧体制崩壊という大変革期。
とはいえ、暴動の様子は描かれず、宮廷内で動揺する人物模様と併せ、愛の世界に焦点が当てられる。
ポリニャック公爵夫人(ヴィルジニー・ルドワイヤン)への王妃の情熱的な恋情。
心をときめかせる姿はまるで乙女のようだ。
その2人の関係をシドニーが知り……。
奇妙な三角関係がドラマのベースとなる。
撮影の大半がヴェルサイユ宮殿で行われ、18世紀末の絢爛豪華な宮廷文化を見事に再現した。
3Dでないのに、何とも奥行きのある映像を構築した。
衣装、礼儀作法など時代考証も行き届いていた。
脱出前、王妃が暖炉で手紙類を燃やす場面は秀逸だった。
揺らめく炎で白いドレスが黄金のごとく輝き、まさに「滅びの美学」を表現していた。
こだわりの演出。
それが作品に風格を与えた。
ブノワ・ジャコー監督が「沈みゆくタイタニック号」と比喩した宮廷にシドニーの羨望と嫉妬心が渦巻く。
彼女が決死の覚悟を抱いた心理描写の鋭さが芳醇な余韻として残った。
1時間40分
★★★
☆12/15(土)より大阪ステーションシティシネマほかにて公開
(日本経済新聞2012年12月14日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)