武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

小栗康平監督はお元気でした~!!

投稿日:

『泥の河』(1981年)、『伽耶子のために』(84年)、『死の棘』(90年)、『眠る男』(96年)、『埋もれ木』(2005年)。

 

33年間に手がけた映画がわずか5本。

 

小栗康平監督は実に寡作な映画作家です。

 

2作目『伽耶子のために』誕生30年周記念ということで、大阪・九条のシネ・ヌーヴォで『小栗康平監督全作品上映』が昨日から始まりました(18日まで)。

 

 http://www.cinenouveau.com/sakuhin/oguri/oguri.htm

 

本作上映のあと、監督のトークショー&マスコミの囲み取材。

 

久しぶりに小栗監督と会える!

 

こんな機会はめったにないと思い、シネ・ヌーヴォに足を運びました。

 

在日コリアンの青年と日本人少女との愛と別れを綴った『伽耶子のために』を30年ぶりに観て、やはり難解な映画だと実感(笑)。

 

宮本輝の出世作を情感あふれた映像に焼きつけた『泥の河』はぼくの一番好きな大阪映画です。

 

それに比べ、『伽耶子~』はまったく別のベクトルで撮っていたので、自ずとわかりにくくなりました。

 

「『泥の河』は宮本さんの巧みなストーリーテリングを生かした作品。しかし『伽耶子~』はストーリーテリングだけでは作り手のメッセージが伝わらない映画なんです」

 

つまり……。

 

「在日の主人公と日本人の自分。何を根拠に物語れるのか。何を根拠にして映画ができるのか。どう見るか。つまりどうカメラの目になるか。その場面、場面で自分がどう見ているのか、その感情の物語を形成しているのが映画なんです」

 

一言で要約すると……。

 

「小栗(自分)の哀しみの素顔を映し出すこと」

 

この映画が公開当時、在日コリアンの問題に関心のある人たちから批判されたそうです。

 

差別の実態を描いていないと!

 

「在日の問題は極めて社会的なもので、そう見ざるをえません。しかし政治、社会的に描くだけではわからない。そこにさわらないで描くのが大切」

 

「歴史的な過ちを客観的に説明するのは映画ではない。それだと心に届かない。痛みが伴わない」

 

うーん、なるほど。

 

話は変わって。

 

ぼくもそうですが、観客は映画のシーンに何らかの意味づけをしたがります。

 

それに対して、監督はこんな回答を。

 

「意味から離れてこそ映画が深まる」

 

「輪郭の中にいると、はぐれないけれど、そこから出ると、わからなくなる。でも輪郭の外に出て、はぐれる必要があるんです。『わからない』と簡単に結論付けない方がいいと思う」

 

33年前に監督デビューして、まだ5本しか撮れていません。

 

「いや、5本もよくできたな~(笑)」

 

「撮影所が崩壊し、映画作りが難しくなりました。その後プライベート映画がどんどん作られるようになり。ぼくは撮影所とその中間にいるんです」

 

20世紀はまだ映画産業があった。しかし21世紀は、CM的映画(商業主義)と作り手の想いがこもった映画(作家主義)に分かれ、そこに客が重ならない。もう『映像の世紀』は潰えましたね」

 

 どこまでも作家主義を貫く小栗監督だけに、状況は厳しい。

 

それでもこの秋から待望の新作に取りかかるそうです。

 

1920年代、エコール・ド・パリの代表的な画家、藤田嗣治に迫ります。

 

第2次大戦中、日本国内で戦争画を描いたことで、戦後、戦争責任を問われました。

 

それに嫌気がさし、フランスに舞い戻り、カトリックに改宗。

 

そこで永眠しました。

 

まさに戦争に引き裂かれた人物です。

 

20年代と40年代、ふたつの時代をしっかり描きたい。そして藤田を自分自身の問題としてとらえたい」

 

どういう斬り口で戦争を描くのか、ひじょうに気になります。

 

御年、69歳。

 

70歳になる来年秋ごろの封切りを考えているとのこと。

 

 

取材が終わり、帰る間際、監督にひとつ訊きました。

 

「地元・群馬を舞台にした映画は撮られないのですか。郷土にこだわった映画です」

 

小栗さんはしばし考え、

 

「いや、それはまったくありません」

 

ほんま、笑顔の素敵なジェントルマンでした。

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。