武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

心地よい奇妙な出会い~日本映画『キツツキと雨』

投稿日:2012年2月10日 更新日:

役所広司、大好きな俳優のひとりです。
ぼくより2つ年下。
なぜか親近感が湧きます。
この『キツツキと雨』では、彼しかできない演技を見せていますよ!
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
キツツキ(1)
©2012「キツツキと雨」製作委員会
60歳の無骨な木こり。
25歳のナイーブな映画監督。
人里離れた山村で、全く別の世界に生きる2人の不器用な男がひょんなことから出会い、心温まるドラマを生んだ。
そこはかとなく漂う優しい空気。
ホッと息抜きができる。
森の中で黙々と木を伐採する克彦(役所広司)。
チェーンソーの乾いた音が響き渡る。
「止めてくれませんか」。
どこからともなく人の声が聞こえる。
彼は意味がわからず、「はい?」。
それを繰り返す。
この冒頭が秀逸だ。
ごく自然に引きずり込まれ、主人公の朴訥さが伝わる。
同時に映画のロケ隊が来ていることがわかる。
翌日、克彦は新人監督の幸一(小栗旬)と知り合い、ゆるりゆるりと物語が動き出す。
そのテンポが非常に心地よい。
幸一は気弱で、覇気が全く感じられない。
こんな青年に撮影現場の仕切りができるのか。
意外性を狙ったのかな。
そう思ったが、何と沖田修一監督の分身だという。
よけいに驚いた!
撮っているのがB級ホラー丸出しのゾンビ映画。
想定外の設定にぼくはハマった。
その映画製作に克彦が関わり、輝き出す。
キツツキ(2)
©2012「キツツキと雨」製作委員会
3年前、妻に先立たれた彼は、定職に就かない1人息子の浩一(高良健吾)と衝突ばかり。
監督を愚息に重ね合わせ、愛情を注ぐところが何だか切ない。
奇妙なふれあいを独特なテイストで綴る。
血糖値が高い克彦と甘いモノ断ちをしている幸一が一緒にあんみつをがっつく。
一気に距離感を縮める瞬間。
かくもわかりやすい演出が随所に見られ、全て納得できる。
役所のおおらかな演技が作風を決定づけた。
円熟した味わい。
エキストラとしてゾンビに化けた時の大写しが最高。
吹き出した。
ダメ監督の幸一だが、ここぞという時、バシッと決める。
この意外性はカッコいい。
人間が愛おしく思えた。
2時間9分
★★★
☆11日から、大阪ステーションシネマシティ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹ほか全国ロードショー
(日本経済新聞2012年2月10日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。