武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

日記

音楽をやってよかった~♪♪

投稿日:2012年2月8日 更新日:

きのう、良いことが2つありました。
ひとつ目は東映の試写室で偶然、会った女性キャスターのNさんから意外な言葉を発せられたことです。
彼女はバンドのボーカリストでもあり、以前、ライブを聴きに行ったことがあります。
昨年11月のちょかBandファーストライブのDVDを観たそのNさんがこう評してくれたんです。
「オリジナルがよかった。どれもメロディーが聴きやすく、タケビー(ぼくのこと)の心の発露がめいっぱい出ていたから」
「カバーをなんぼ上手くやっても、所詮、他人の歌。オリジナルをどんどん作ってちょうだい」
ちょかBandを結成したときから、彼女は「バンド(ユニット)の命はオリジナルですよ」とアドバイスしてくれていました。
でも、こう面と向かって褒められるとは、びっくりです。
そのあと、さらに驚きました。
「タケビーの声、いいね。決して歌は上手くないけれど、自分のキーに合ったとき、すごくいい声を出しているよ。もっともっと歌い込めば、曲に深みが出てくる。間違いない」
えーっ!!
全然、声が通らないし、ゆめゆめ美声ではないと自覚しているのに。
とくに『シネマはお好き?』のボーカルが気に入ったとか。
お世辞かなと思ったけれど、「なんで私がお世辞、言わなあかんのん」とNさん。
彼女は何でも自分の感じたことをズバリと言う人です。
だから、よけいにうれしくなったし、自信が持てた。
上機嫌で、大阪ステーションシネマであった夜の試写『マリリンの7日間の恋』を観て帰宅すると、1通の手紙が届いていました。
差出人は岡山のSさん。
過日、京町堀・BAR洋燈(ランプ)でのちょかBandのライブに来てくれはった若い男性です。
ラスト近く、印刷職人だったオヤジさんのことを想って作ったオリジナル曲『あの日、あの頃』をぼくが歌っている最中、彼女とひょっこり来て、耳を傾けてくれました。
幼少期のちょっとしたエピソードを綴っただけの曲で、オヤジとか父親とか、そんな文言は出てきません。
家族が暮らしていた長屋に印刷機を入れ、黙々と仕事をしていた父親をぼくが意識した日々。
原風景……。
そんな感じです。
あえて、ここで歌詞を載せます。
『あの日、あの頃』
(1)アイスキャンディーを 口にほおばりながら
   須磨の海岸で 犬かきをしていた
 
     沖には白い船 空にはわた雲フワフワ
   波打ちぎわを 見れば 煙草をふかしてた
       小さな身体に インクのにおいが染みついて
     
       恥ずかしかったその背中が なぜだかまばゆく見えた
(2)天王寺の動物園では トラの檻の前で
   いきなりオシッコを ピューッとかけられ 泣いていた
     落ち葉が舞うなかで 手にはマーブルチョコレート
   ケラケラ笑って タオルで 顔をふいてくれた
       小さな身体に インクのにおいが染みついて
     
       恥ずかしかったその背中が なぜだかまばゆく見えた
(3)印刷機のよこに スルメと一升瓶を置いて 
   カシャン、カシャン、カシャン 黙々と 夜なべ仕事を
       小さな身体に インクのにおいが染みついて
     
       恥ずかしかったその背中が なぜだかまばゆく見えた
   
演奏終了後、「すんません。もう一度、初めから聴かせてもらえませんか」と言われ、再度、歌いました。
ちょかBandにとって初のアンコール。
うれしかった!!
そのあとカウンターでSさんと一緒にグラスを交わしました。
大阪でバーテンダーをやっていたけれど、結婚をするので、岡山の実家に戻る。
今夜が大阪最後の夜。
その記念すべき夜に素敵な曲に巡り合えた。
そんなことをほろ酔い気分で言うてはりました。
そして、「あの曲のCD、ありますか? 送ってください。本当に気に入りました」と催促されまして。
後日、自宅で録音していた分をCDに焼き付け、Sさんの家に送りました。
そのお礼状が届いていたのです。
便箋に3枚。
お若いのに、達筆で、実に丁寧な文章でした。
これまでの経歴と、好きなバーの世界から離れ、「昼の普通の仕事」に就くという決意がしたためられていました。
「あの演奏に出会い、曲の中のお父様の姿が、自分の父親、あるいはこれから何十年か後の自分の姿と重なって感じていました」
「『夢の仕事じゃなくても、本当にやりたい仕事でなくても、家族のために一生懸命働いて、それで大人になった子供が最後に父親として認めてくれれば、それでいいじゃないか』と考えると、自分なりに心の整理がつき、楽になりました」
「これから、もっと色んな壁にぶち当たると思いますが、その時はこの曲を聴いて、あの時感じた気持ちを思い出し、頑張ろうと思います」
この締めの文には泣かされました。
ぼくは音楽に関しては全くのど素人で、趣味で楽しんでいるだけなのに、かくも人の心を打つ曲を作っていたとは……。
感激です。
オリジナル曲を手がけてよかった、心底、そう思いました。
ありがとう、Sさん。
でも、あの歌の真意はそうではないんです。
オヤジへの敬意には満ちあふれていますが……。
だから今朝、彼に返信の手紙を書きました。
自分のバーを開きたいという夢は諦めず、胸にそっとしまっておいてはどうですか。
これからしばらくは家族ため、お金を貯めるための期間と割り切って働く。
チャンスと勇気があれば、きっとバーを開けますよ。
ぼくの父親は家族のため、嫌な印刷の仕事を続けてきました。
それゆえ、立派だと思えるのです。
本人は、映画の脚本家、銀行員、農業を営むブラジル移民……、いろんな夢を持っていたようですが、結局、ズルズル流され、印刷職人で終わりました。
それが自分でよほど悔しかったようで、晩年は酒を飲むと、よくぼくにこんなことを言うていました。
「おまえは若いから可能性がある。オレみたいな人生を歩むなよ。好きなことを探して、それを貫け」
『あの日、あの頃』の詩には、そんなオヤジのやるせない気持ちも込められているんですよ。
紆余曲折があったけれど、父親の言葉を生かし、今、ぼくは「好きの力」を発揮できる仕事をしています。
本当に幸せ者だと思っています。
だから、Sさん、夢は捨てないでください。
ぼくの手紙は長文になりました。
このブログの文章も長文ですね(笑)
ここら辺りで止めておきます。

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。