歌舞伎の市川海老蔵が、あのとんでもない事件を引き起こす直前にクランク・アップした時代劇『一命』。
お蔵入りになるかと心配されていましたが、カンヌ国際映画祭にも出品でき、晴れて公開の運びとなったのは喜ばしいことです。
今日の日本経済新聞夕刊に載った拙文をどうぞ~。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
日本人の美徳とされてきたサムライ精神。
それに疑義を唱えるテーマにまず惹かれた。
命を賭けて守るとはどういうことなのか。
繊細な心の機微をあぶり出した時代劇を、奥行きのある3D映像で見せる。
時代劇映画の名作、小林正樹監督の『切腹』(1962年)を三池崇史監督がリメークした。
派手なアクションを得意とする同監督らしからぬ抑えた演出。
それが静寂さと重厚さを生み出し、本作の空気を支配していた。
江戸初期、貧しい浪人、津雲半四郎(市川海老蔵)が井伊家江戸屋敷を訪ね、家老の斎藤勘解由(役所広司)に切腹を申し出た。
(C)2011映画「一命」製作委員会
(C)2011映画「一命」製作委員会
数ヶ月前にも若浪人から同じことを言われ、やむなく切腹させた家老は困惑する。
半四郎の口から、その若者が娘婿の千々岩求女(瑛太)であることが判明する。
(C)2011映画「一命」製作委員会
彼の狙いは一体、何なのか。
サスペンス色が濃くなる中、お家取り潰しで、浪人に身を落とした主人公の足跡が回顧シーンを介して浮かび上がる。
愛娘の美穂(満島ひかり)が産んだ孫を囲む家族の幸せな日々を、生活苦が容赦なく襲う。
求女と半四郎が武士の面目を捨ててまでして、悲壮な覚悟で臨んだ行為がたまらなく哀しい。
人の情を前面に押し出す半四郎と対極にあるのが勘解由の価値観だ。
地位、名誉、威厳を何よりも重んじる武士の生き方。
両者の異なる立場を考えると、どちらの言い分も理解できる。
しかし武士である前に人間であることを突いてくる。
海老蔵が鬼気迫る演技を披露した。
初の時代劇映画出演とあって、やや力みが目につくものの、十二分に存在感を発揮。
一気に炸裂するラストの立ち回りはまさに圧巻だった。
(C)2011映画「一命」製作委員会
(C)2011映画「一命」製作委員会
ただ、初老の役にしては、若く見えすぎ。
三池監督!
遠慮せずに老けさせてほしかった。
2時間7分
★★★
☆15日からなんばパークスシネマほかで
(日本経済新聞2011年10月14日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
市川海老蔵主演の重厚な時代劇~『一命』
投稿日:2011年10月14日 更新日:
執筆者:admin