ポーランドの旅で奇跡的に会えた巨匠アンジェイ・ワイダ監督は85歳です。
そのワイダ監督を14歳も上まわる新藤兼人監督の新作『一枚のハガキ』が、監督の地元、広島で先行上映されています。
かなり見応えのある作品です。
ぼくの拙稿をどうぞ。
©2011「一枚のハガキ」近代映画協会/渡辺商事/プランダス
99歳の新藤兼人監督が「最後の作品」と言い切った。
自らの戦争体験に基づいた反戦映画だが、押しつけがましさはなく、逆境を笑い飛ばす諧謔なる精神が宿っている。
監督の映画人生を締め括るにふさわしい作品だと思った。
予科練航空部隊に入隊した松山啓太(豊川悦司)が敗戦後、戦死した兵士仲間、森川(六平直政)の妻、友子(大竹しのぶ)を山深い村に訪ねる。
生前、森川から渡された彼女のハガキを携えて。
侘しい農家を舞台に2人芝居となり、本音がぶつかり合う。
かなり強烈だ。
しかしユーモラスなシーンが随所にまぶされており、息苦しさを一掃する。
間合いも絶妙。
日本最高齢の監督が演出したいぶし銀の映像にぼくは堪能させられた。
前半はここに至るまでの過程が綴られる。
啓太は苦しんでいた。隊員100人のうち、生存者は彼を含む6人だけで、生死の別れ目となったのは上官が引いたクジだというのだ。
何と不条理なこと。
それを思うと、いたたまれなくなる。しかも帰還後、彼は予期せぬ大打撃を受けていた。
友子も時代の荒波に翻弄され、1人暮らしを余儀なくされていた。
それだけでも十分、ドラマになるのに、啓太の生きざまを絡ませ、物語をさらに濃厚なものに。
名脚本家でもある新藤監督のなせる業だ。
戦争は兵士だけではなく、家族をも破壊し尽くす。
その現実をてらいもなく突きつける。
そこに戦争の本質があぶり出されていた。
何もかも失った2人。
それでも生き抜いていかねばならない。
はて、どうする?
監督の出世作『裸の島』(1960年)で、水を桶で運ぶ場面を再現していた。
それは「再生」の象徴であろう。
金色に輝く大麦畑の向こうに“映画の神様”がちらりと見えたような気がした。
1時間54分
★★★★
8/6(土)からテアトル新宿、広島・八丁座にて先行ロードショー
8/13(土)からテアトル梅田/京都シネマ/シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー
(日本経済新聞2011年8月5日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
日本最高齢の監督、新藤兼人のラスト作~『一枚のハガキ』
投稿日:2011年8月12日 更新日:
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