武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

スコットランド一人旅(2024.5.26~6.6) 日記

スコットランド一人旅(8)

投稿日:2024年6月9日 更新日:

ウィック(Wick)は人口7000人ほどの町ですが、ケイスネス(Cathness)地方の中心地です。

かつてニシン漁で大いに栄えたそうですが、今やその面影はありません。

この辺り、ケルト語の一種、スコットランド・ゲール語の表記が目立ちます。

ケルト文化をライフワークにしている身にとって、ゲール語はすごく気になります。

かつてはスコットランド全土でかなり話されていましたが、英語に押しやられ、今では非常にマイナーな言語に。

それでもエルギンやフレイザーバラなどハイランド東部では、西部ほどではありませんが、道路表示、鉄道駅名、公共の建物などで英語とゲール語の併記が目につきました。

ウィックなど北部(ケイスネス地方)では、ゲール語が上で英語が下に記されています。

前回訪れた14年前と比べると、浸透具合が深まった感じ。

宿屋でテレビを見ていると、BBCスコットランドのゲール語番組が放送されていました。

もちろん英語字幕付きです。

しかしこちらに来て、ゲール語を話している人を見たことがありません。

ゲイリーとシャーリーもゲール語スピーカーではないです。

スコットランド人のアイデンティティの1つとして、いわば「母語」のゲール語を、お上(スコットランド政府)が広めようとしているのに、なかなか住民に浸透しない。

笛吹けど踊らず……、このジレンマ。

やはり世界語の「英語」を話せるのが最大の障壁ですね。

そうそう、ゲール語とは別に、アバディーン州やマレー州では、ドリック(Doric)という独特な方言があることをシャーリーに教えてもらいました。

いやぁ、言語は興味深いです。

ともあれゲール語の行く先が気になります。

居心地の良いゲストハウスで美味な朝食をいただいてから、街中にあるパルテニー(Pulteney)蒸留所を見学しようと訪れると、門が閉まっていました。

そうか、今日は日曜日やった……。

毎日、ホリデーなので、曜日感覚がなくなっていました(笑)

そこで海岸沿いを散策していると、第2次大戦中、ドイツ軍の攻撃に備えて構築されたトーチカが残っていました。

スコットランドのみならず、イギリスの沿岸にはこうした戦争の残滓が結構、ありますね。

  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

正午前、ウィック駅からスコットランド鉄道(Scot Rail)でインバネス(Inverness)へ。

4時間15分の鉄道の旅、なかなかご機嫌でした。

インバネスは5度目です。

到着後、パブでしばしビール・ブレイクし、予約していた宿屋に行くと、ドアが開いていたのに誰もいません。

ここも個人経営です。

あれ、どうしてチェックインするやろ?

予約シートに記された電話番号にかけると、オーナーと思しき男性が「メールでメッセージを送っています。それを読んでください」

しかし、メールには何も届いていない。

そや、自宅のパソコンで予約したので、スマホには届いてないんや。

ぼくがたどたどしい英語でやり取りしていると、宿泊しているインド人の娘さんが「私が聞いてあげる」と掛け合ってくれはりました。

親切な子や。

ところが、彼女の英語がほとんど理解できなかった(笑)

結局、しばらくしてご高齢のオーナーがやって来て、宿の裏手にあるバンガロー風の建物に案内してくれました。

簡易宿泊所みたい。

道理で泊まっているのはヤングばかりや。

まずはこれで宿を確保でき、城の前に屹立するフローラ・マクドナルド嬢の像に挨拶しに行ったら、工事中でした。

残念。

晩御飯は、無性にスモークサーモンを食べたくなり、レストランの値段表を見ると、何と日本円で5,000円ほど。

こら、アカンわ。

すぐにスーパーに行き、サーモン+サバ缶+チーズ+サラダ+ワイン(小びん)を買い、部屋でいただきました。

支払いが3分の1ほどで済み、美味かった〜

  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

食後、パブへ行くのが邪魔くさくなり、購入していたウイスキーをちびちびやっていました。

夜の10時ごろ、外の空気を吸おうとドアを開けようとしたら、開かない!

カギと錠がガッチリ固定しており、取っ手をいくら動かしても、全く開かないんです。

ありゃ、えらいこっちゃ!!

監禁されてしもうた。

あわててオーナーに電話し、事情を説明したら、「そんなはずはない」と。

そんなこと言うても、開かないものは開かない。

「部屋まで来てくださいよ」

そう言うと、

「自宅は郊外なので、無理です。明日の8時に行きます」

こういう形態の宿屋、多いですね。

そんなアホな……、宿泊客が困っているのだから、すぐに対処せなアカンやろ。

「もし火災が起きたら、どないするねん。焼け死ぬやろ  責任問題やで」(この部分、怒りと興奮のせいで、「大阪弁」)。

ぼくの主張虚しく、部屋から出られず、夜を明かすことに……。

-スコットランド一人旅(2024.5.26~6.6), , 日記

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。