武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画の地を訪ねて(3) 地中海・マルタ~『トロイ』

投稿日:2011年7月7日 更新日:

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「地中海のおへそ」
こんな異名をとるマルタ共和国にぼくが関心を持ったのは、アメリカのスペクタクル大作『トロイ』(2004年)の撮影地だと知ったから。
トロイの王子パリス(オーランド・ブルーム)が、スパルタ王妃ヘレン(ダイアン・クルーガー)と恋に落ち、彼女を略奪したため、全ギリシア軍がトロイ攻略を図る。
1人の女性をめぐり、かくも大戦争が起きるとは恐れ入る。
神話上の話だが、この映画では神が出てこず、壮大な人間ドラマとして描かれていた。 
 
マルタは小アジアのトロイから東へ1200㌔も離れている。
歴史的にもあまり関わりがない。
なのにどうして撮影地に? 
それはカラッと明るい地中海世界を強調するクリーム色の石灰岩(マルタ・ストーン)で島ができており、古代の物語の舞台としてふさわしいからだ。
ローマ帝国を題材にした『グラディエーター』(2000年)もここで撮影された。
マルタは映画のロケ招致に力を注いでいる。
 
世界遺産に登録されている首都ヴァレッタの街並みに目を見張った。
堅固な城門をくぐると、古色蒼然とした建物が碁盤の目に立ち並ぶ。
ズシリと感じる歴史の重み。
日陰の路地に籠るまったりした地中海の空気が潮風と混ざる。
夜にはライトアップされ、何とも幻想的な情景が浮かび上がる。
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十字軍の時代(11~13世紀)に聖地エルサレムで結成された聖ヨハネ騎士団が、16世紀にマルタを活動拠点にした。
ヴァレッタはオスマン・トルコとの「大包囲戦」(1565年)の勝利後に築かれた城壁都市だ。
岬の先端に威風堂々と構える聖エルモ砦、騎士たちが治療を受けた騎士団施療院など当時の面影を残す建造物がそこかしこにある。
カトリック信仰に根づいた騎士ゆかりの地。
しかし芳醇なイタリア文化、北アフリカのイスラム色、さらに164年間統治したイギリスの影響を受け、マルタには独特な息吹が漂う。
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スティーヴン・スピルバーグ監督の『ミュンヘン』(2005年)の撮影スポットになった、グランド・ハーバーを望むヴァレッタ東海岸の古びたホテルに投宿した。
対岸の街がまた美しい。
出入港する豪華客船を部屋の窓から眺めていると、北端のリカゾーリ砦が目に入った。
そこにある撮影所で、『トロイ』の宮殿や木馬などが作られた。
しかし残念ながら、一般公開されていない。
翌日、ひと昔前の古びた国営バスとボートを乗り継ぎ、本島とゴゾ島との間に浮かぶコミノ島へ。
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そこには、「ブルー・ラグーン」と呼ばれるエメラルド色の海が広がっていた。
抜群の透明度。
何だか沖縄の離島にいるような錯覚に陥った。
『トロイ』で、出征するアキレス(ブラッド・ピット)と母テティス(ジュリー・クリスティ)との別れのシーンが撮られた所だ。
穏やかな海と風。
その絶妙なアンサンブルにぼくは酔いしれた。
まさに地上の楽園! 
マルタへの恋心がにわかに芽生えてきた。 
(読売新聞2009年3月10日朝刊『わいず倶楽部』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。