武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

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素晴らしき哉、焼津~! 

投稿日:2021年7月6日 更新日:

7月4日(日)、5日(月)と静岡県の焼津に出張していました。

当地にある小泉八雲記念館から、ケルトの講演を依頼されたからです。

明治の文豪、小泉八雲こと、ラフカディオ・ハーン(1850~1904)と焼津――??

あんまりピンときませんが、晩年の1897年(明治30年)から6回にわたって毎年夏、焼津を訪れていたんですね。

焼津といえば、漁業の町くらいしか知らなかったので、俄然、興味を覚え、早く焼津へ行きたいとずっと思っていました。

ところが……、講演の前日、東海・相模地方が凄まじい豪雨に襲われ、静岡県東部の熱海では土石流が発生し、甚大な被害が出たので、てっきり公演が延期されると腹をくくりました。

案の定、記念館の学芸員、松﨑章人さんからもその旨の連絡が届き、今回はご縁がなかったんやなぁと諦めました。

ところが、夜半、「雨が小康状態になり、明日も大雨にはならないそうです」と松﨑さんから知らされ、再びむらむらとやる気が。

とはいえ、肝心の東海道新幹線が止まったままで、4日も終日、運休するとの情報をスマホを介して知りました。

ヤバイ‥‥、いかにして焼津入りすればええんやろ。

せや、在来線で行ったらええねん。

当日(4日)の早朝、詳しく言うと、午前4時半に起床し、午前5時すぎ、バッグを抱えてJR大阪駅へ。

始発の快速に乗って米原へ、そして豊橋、浜松で普通電車に乗り換え、焼津に到着するというルートです。

6時間以上かかりますが、これなら、何とか午後2時からの講演に間に合いそう。

眠い目をこすりながら大阪駅に着くと、「新幹線が一部、徐行運転しますが、通常に運行されてます」と駅員から聞き、急に拍子抜けし、自宅へUターン。

帰宅後、ベッドでウトウトし、ちょっとリフレッシュしてから、新大阪駅発午前8時48分のひかり号に乗り込み、焼津に向かいました。

日曜日というのにガラガラの車内で、ぼくはひたすら自著『ヨーロッパ古代「ケルト」の残照』(彩流社)を開き、講演の予習に余念がなかったです。

静岡駅で下車し、早めの昼ごはん(肉カレーうどん)で腹を満たし、普通電車で焼津駅へ。わずか12分で着いちゃうんですね。

   ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

改札で、ぼくに講演依頼をしてくれた常葉大学外国語学部助教の那須野絢子さん(春まで記念館の学芸員)と焼津市文化振興課の仁科雅喜さんが出迎えに来てくれてはりました。

車で記念館に着くと、スタッフと市役所の人が勢ぞろいでお待ちかね。

こんな歓待を受けると思っていなかったので、びっくりしましたわ。

講演会場は、記念館に隣接する焼津文化センターの大会議室。

事前に送ったパワーポイントのスライド画像をチェックしていると、一眼レフを抱えた青年がつかつかと近寄ってきました。

「先生、久しぶりです。関大のJP(ジャーナリズム講座)ではお世話になりました」

マスク顔なので、だれなのかわかりません。マスクを取っても……????

「中日新聞で記者をやってる大橋です」

「あ~っ、君か!」

彼は2015年卒業生。

それ以来、会っておらず、しかもかなり恰幅がよくなっていたので(笑)、別人かと思いました。

現在、静岡総局の島田通信局勤務で、一応、「取材」で来たとのこと。

まさかここで教え子と会えるとは思わなかった。

ツーショットの写真を撮りたかったんですが、バタバタしていて、その機会を逸したのが残念。

このあと、若いご夫婦が挨拶にこられました。

ガイアフロー静岡蒸留所の中村大航さんと奥様です。

中村さんとは今年1月、神戸のバーでお目にかかっていたので、半年ぶりの再会でした。

ジャパニーズ・ウイスキー作りの俊英とあって、やはり「ケルト」に関心をお持ちなのでしょう。

ご足労、ありがとうございました!

講演終了後、中村さんとのツーショット!

定刻かっきり、フィジカル・ディスタンスを厳守しての満席の中、『「ケルト」を探る~ヨーロッパの原点を求めて』と題してお話ししました。

情報量が多く、途中、いつもながら寄り道話をしてしまい、10分ほどオーバー。

でも、参加者の皆さんが驚くほど熱心に耳を傾けてくださり、こちらがびっくりポンでした~!

これまで数えきれないほどやってきた講演の中では、焼津の人たちはとびきり「優秀」な参加者でした。

   ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

講演終了後、那須野さんの案内で小泉八雲記念館をじっくり見学しました。

八雲と焼津の関わりを示す展示の数々。八雲が間借りした魚商人、山口乙吉との思い出と交流を示す資料、八雲直筆の手紙……など興味深いものばかり。

那須野さんが立案された企画展示会『世紀末を生きたイギリス幻想文学作家たち』はハーン、ルイス・キャロル、コナン・ドイル、ジェームズ・バリーの4人の作家を取り上げており、独特な視点からとらえた妖精や怪奇物語、そして作家の生い立ちがわかり、知的好奇心をくすぐられました。

隣接する歴史民俗資料館では、1954年、ビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験で被爆したマグロ漁船「第五福竜丸」の関連展示に目が釘付けになりました。

この事件を機に、焼津は広島・長崎と同様、反核平和を訴えています。

さらに懐かしの映画ポスター展が開催中で、存外に見ごたえがありました。

写真撮影がダメだったのが残念…………。

焼津は、漁業だけでなく、文化を愛でる街なんですね~💛

夜は一人遊びをする予定でしたが、那須野さんと仁科さんに誘われ、よく知られた磯料理店「黒潮」へ繰り出しました。

「緊急事態宣言」とか、「まん延防止等重点措置」とかは関係がないので、めちゃめちゃ開放感に浸れますね。

これが健全な社会です!

マグロ&カツオのお造り、サクラえびの天ぷら、マグロのヘソ(心臓)とはんぺんのフライなどの郷土料理 地酒に舌鼓を打ちながら、小泉八雲話などでえらい盛り上がり、素敵な焼津の夜を満喫できました~!

焼津に来て、マグロを食べない奴は人間じゃねぇ(笑)

カツオのたたきならぬ、お造りです

特産サクラエビの天ぷら

左がはんぺんの天ぷら、右がマグロのヘソ(心臓)の天ぷら

このあと単独でバーに行くつもりでしたが、さすがに余力がなくなり、駅前のホテルに戻り、爆睡と相成りました。

☆     ☆     ☆     ☆     ☆

翌5日の午前中、晴れ間がのぞく中、焼津に点在する小泉八雲ゆかりの地をてくてく歩いて巡りました。

「歩いていくには距離がありますよ」と前日、那須野さんから忠告されていましたが、ぼくは歩くのが大好きなんです。

ヨーロッパの「ケルト」の取材では、1日に20キロほど歩くこともざらです。

焼津駅からスタートし、まずは海辺をめざしました。

焼津漁港は魚の水揚げ量日本一です!

遠洋漁業(マグロ、カツオ)のはえなわ漁船はほとんど南太平洋やインド洋へ漁に出向いており、数隻しか見かけなかったけれど、近海・沖合漁業(サバ、アジ、イワシ)の漁船はぎょうさん係留されていました。

遠洋漁業のはえなわ漁船

近海・沖合漁業の漁船

漁港の近くには、カツオ節、ヘシコ、はんぺんなど水産加工の工場や店が点在しており、なるほど焼津は漁業で成り立ってるんやと実感した次第です。

削り立てのカツオ節屋さん

サバの糀漬けの店

このあと、八雲が間借りしていた山口乙吉の家があった浜通り(八雲通り)を散策。

長さ1・5キロ、かつての目抜き通りでしたが、今では空き家が目立ち、どことなく寂寥感が漂っていました。

乙吉の家は、明治村に移転されたそうで、現在はごく普通の民家が建っており、その前に「八雲滞在の家跡の碑」が設置されていました。

八雲が間借りしていた家。現在、普通の民家が建っています

「八雲滞在の家跡」の碑

とにかく、焼津市内には八雲関係の記念碑、説明板が至るところにあります。

焼津駅前には「八雲の碑」、港近くには「小泉八雲先生諷詠之地」碑、よく訪れた神社や寺院などにも説明板や記念碑が……。

駅前の「八雲の碑」

新川橋の「小泉八雲先生風詠之地」碑

焼津がこれほど明治の外国人文豪を顕彰しているとは思わなかった~

浜通りの西端に明治期に建造された大堤防の残滓がありました。これで津波や高潮から守っていたんですね。

次に北上し、海蔵寺、教念寺、熊野神社、光心寺、焼津神社と巡っていきました。

いずれも八雲の作品に登場するスポットらしいです。

境内が幼稚園になっていた海蔵寺

熊野神社

八雲がよく訪れた焼津神社

そして焼津駅にゴールイン。

途中、休憩をはさみ、延々2時間半、歩きっぱなし。

さすがに疲れ、腹も減って来たので、タクシーに乗って焼津さかなセンターへ。

コロナ前は中国人や韓国人らの観光客で大賑わいだったそうですが、今はガラガラ、閑古鳥が鳴いていました。

でも、鮮魚店がズラリと軒を並べている光景を目にすると、ルンルン気分になってきます。

ランチは、女性の店主が仕切る店で、マグロの三種盛り(左から赤身、トンボ・マグロ、トロ)と生ビール~

マグロは左からビンチョウの赤身、トンボマグロ、本マグロのトロ

これで思い残すことはありまへん~ (笑)

そんなこんなで、素晴らしい出張になりました。

気が付くと、焼津をすごく好きになっていました~

この街にやって来て、ホンマによかった!

ただ、1つだけ反省点があります。

それは記念館の人たちと記念撮影を撮れなかったことです。

せめて、前夜、「黒潮」で3人のスナップ写真だけでも撮影しとけばよかったなぁ……。

まぁ、飲んで喋り出したら、そんなことすべて忘れてしまうので、今さら悔やんでも、詮のないことですが。

そして気分よく焼津を去り、大阪へ帰ってきました~

以上、ざっくり報告させていただきました。

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。