大阪ストーリー(4)チャリで渡船巡り~飾り気のない大阪に触れる(2018年9月)
☆庶民の足、渡船
短パン、Tシャツ、サンダル履き、サングラス。
こんなラフな身なりでママチャリに乗り、残暑の厳しい8月下旬、渡船巡りをしてきました。
年に一度、必ず渡船に乗りたくなる「病気」なんです。
時候がよければ、ランニングで行きますが、歩いていくのもなかなかええ塩梅。
今回は趣向を変え、自転車にしました。
どうして渡船なのか?
それはちょっぴりレトロ感があり、普段着の大阪と触れ合えるからです。
「水の都」の異名を取る大阪には古くから渡し舟が各地にありました。
明治40(1907)年、29カ所の公的な渡船場が設けられ、戦後は昭和23(1948)年、15カ所で再開しました。
現在は8カ所。いずれも大阪市南西部の港湾エリアにあります。
1カ所だけ民間に業務委託していますが、すべて大阪市が管理。公道と同じ位置づけなので、乗船料は不要です。
ただし、乗れるのは歩行者と自転車だけ。
☆落合上渡船
自宅(西区新町)からペダルをこいで木津川沿いを南下し、千鳥公園(大正区)の東にある落合上渡船場へ到着しました。
待合所から眺める木津川は意外と川幅が狭い。
東側にある対岸の渡船場(西成区)が目の前に見えます。
乗船はぼくだけかなと思っていたら、運行時間の直前になってぞくぞくと利用者がやって来ました。
みな近所の人たちで、渡船の時間をちゃんと把握してはるんですね。
大半は自転車の人。
「こんにちは」
「今日も暑いですね」
船を操舵するおじさんに口々に挨拶し、みなさん船に乗り込みます。
運航時間は2分ほど。
その間、潮の香りをかすかに含んだ川風がそよぎ、得も言われぬ心地よさに酔いしれました。
立ったまま。揺れがあると危険なので、船上での写真は御法度です。
対岸の渡船場に着くと、「ありがとうございます」、「おおきに」と必ずお礼を言い、「お気をつけて」の言葉を背中に受けて下船。
こういう言葉のキャッチボールは理屈抜きに心が和みますね。
☆落合下渡船~千本松渡船
500メートルほど下流の落合下渡船場から今度は木津川を西側へ渡り、さらに自転車で南へ。この辺り、大きな工場が建ち並んでいます。
日曜日なので閑散としていましたが、平日ならトラックが頻繁に行き交っていることでしょう。
流麗なループ橋の千本松大橋を仰ぎ見る千本松渡船場。
そこでサイクリングの一団と出会いました。
中年男の5人組。訊くと、豊中から堺の浜寺をめざしているそうで、「渡船を乗るのが楽しみですわ」とリーダー格の男性が日焼け顔で答えてくれました。
☆木津川渡船~船町渡船
このあとOsaka Metro四つ橋線の北加賀屋駅(住之江区)近くでランチを取り、南港通を西へ進み、木津川渡船場へ。
数えると、木津川に4か所も渡船場があります。
対岸には中山製鋼所。
でっかい!
阪神工業地帯の一翼を担っているのを肌身で感じられました。
渡船で木津川を北へ渡り、工場街の船町(大正区)を縦断して先端にある船町渡船場へ来ると、「早く、早く!」と職員さんの声。
「わっ、すんません!」
あわてて乗船したら、すぐに動き出しました。
間一髪セーフ。
☆千歳渡船
木津川運河を渡ったところが鶴町(大正区)です。
整然と団地が建ち並ぶ中を北上し、アーチが美しい千歳橋の下にある千歳渡船場へ来ました。
ここは大正内港の付け根に当たります。
多くの貨物船が停泊しており、向こうに緑豊かな千鳥公園が望めます。
視線を左へ移すと、弁天町(港区)の高層ビル群。
素晴らしい景観にうっとりさせられました。
台湾から大阪観光に来た家族連れがいました。
「こんな渡船、国(台湾)にはないです。タダというのが嬉しい」と小柄なご主人が片言の日本語で話してくれました。
今や渡船はちょっとした観光の目玉になっており、外国人だけでなく、国内の観光客も渡船を乗りに来ています。
千歳渡船は一番距離があり、対岸の北恩加島(大正区)まで約4分かかりました。
途中、悠然と航行する貨物船のそばを水上オートバイが水しぶきを上げて突っ走っていきました。
なかなか刺激的な光景でした。
☆甚兵衛渡船
7つ目は尻無川の甚兵衛渡船場です。
大正区泉尾と港区福崎を結んでいます。
この付近、学校が点在しており、平日の朝晩は通学する生徒で混み合い、二隻の渡船がフル稼働します。
船内に電車の車内と同じ吊り革がありました。
利用者が最も多い渡船です。
この日はしかし、夏休みの日曜日、いたってのどかな風情でした。
「毎日、利用してはるんですか」
「ええ、買い物に行くときは便利やしね。生まれたときから渡船に乗ってますよ。ハハハ」
同船した年配の主婦の言葉から、渡船が日常に欠かせない〈市民の足〉になっているのがよくわかりました。
甚兵衛渡船場から北西へ約2.5キロに位置するのが残る1つの天保山渡船場です。
海遊館のある港区築港とUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のある此花区桜島を結んでいます。
安治川をはさんでの二大観光スポット。
そのため近隣住民に加え、観光客がめっぽう多く、USJのアメリカ人従業員の姿もよく目にします。
暑さでいささかバテ気味となり、今回は天保山渡船をパス。
甚平衛渡船場から自宅へ直帰しました。
飾り気のない庶民的な空気をたっぷり吸え、思いのほか心の洗濯ができました。