武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

エッセー

戦争ごっこ

投稿日:2012年8月23日 更新日:

小学校低学年のころ、町内の子たちと自転車でときどき大阪城公園へ遊びに行きました。

 

昭和37年ごろでしょうかね。

 

目的地は廃墟と化していた大阪砲兵工廠跡です。

 

現在、大阪城ホールが建っているところです。

 

 

戦時中、東洋一の軍需工場といわれ、米軍機の標的にされました。

 

敗戦から20年近く経っていたのに、放置されたままで、その辺りはまだ戦争の色を強く残していました。

 

見るも無残な姿をさらしている建物の周囲には金網が張りめぐらされ、立ち入り禁止でしたが、遊ぶことしか眼中にないぼくたちにはそんなこと関係なく、破れているところから勝手に中に入っていました。

 やることは決まっています。

 

戦争ごっこ!

 

何を造っていた工場なのか知らず……、ほんま、無邪気なものです。

 

「あそこに行ったらあかん。子取りに会うぞ」

 

親から口すっぱく禁足令が出されていましたが、薄暗いなか、瓦礫の山が無秩序にひろがる不気味な空間は戦争ごっこの格好の場だったのでした。

 

硝煙の臭いでしょうか、ツーンと鼻をつく異様な空気が漂っていました。

 

穴のあいた天井から陽光が燦々と降り注いでいる情景が今でも忘れられません。

 

ときどき、大人の姿も眼にしました。

 

今思えば、廃品を回収していた「アパッチ」の人たちだったのでしょう。

 

そこはぼくたちだけの遊び場ではなく、よく知らない子たちと鉢合わせしました。

 

彼らも戦争ごっこをしたくて不法侵入していたのです。

 

ある日、玉造から来たというグループと対戦することになりました。

 

こちらは5人、向こうは6人(だったと思います)。

 

それも年長でした。

 

明らかに劣勢だったけれど、遊びたいという気概に突き動かされ、すぐに戦争状態に突入しました。

 

30メートルほどの距離を保ち、互いに対峙します。

 

武器は「土まんじゅう」。

 

湿った地面の土を、おにぎりを作る要領で固めて投げ合うのです。

 

防御用具は木の板。

 

廃材やら材木やらが散乱していましたからね。

 

錆びた釘がいっぱい刺さっている木があったりして、ときどき傷を負ったこともありましたが……。

 

「土まんじゅう」が飛んでくると、それを盾にして身を防ぐのです。

 

なかなかスリルがあった。

 

一応、当たれば、死ぬことになっていました。

 

だから必死ですよ。

 

避けたり、木でガードしたり。

 

でも、めちゃめちゃ楽しかった。

 

ところが、しばらくすると、ぼくの横にいたタッちゃんが声を荒げたんです。

 

「石や!」

 

木の板で受け止めたとき、土が割けると同時にカーンと音がしたから。

 

見ると、相手から投げられた土のなかに小石が入っていたんです。

 

条約違反!!

 

べつにちゃんと定めたわけではないのですが、子供ながらケガをしないよう、土のなかに何も入れないという暗黙の了解がなされていたのです。

 

それが破られた!

 

みな頭に血が昇った。

 

こちらも小石を土のなかに入れて投げ、応戦しました。

 

そのうち石がだんだん大きくなり、やがて石の投げ合いになってしまったのです。

 

ここまでくると、もう遊びではありません。

 

ルールもへったくれもない。

 

みなボルテージが上がり、ガンガン石や瓦礫を投げている。

 

これは危ない!

 

正直、怖かったけれど、もはや引き下がれない。

 

木の板に当たる石と瓦礫がカンカン鳴り響いています。

 

と、そのとき、「イターッ!」と悲鳴が聞こえました。

 

向こうからです。

 

双方とも“爆弾”を捨て、声の主に注視しました。

 

ひょろりとした子の額から血が流れていたのです。

 

ワーーッ!

 

身がすくんだ。

 

ぼくたちは謝ることもせず、その場から脱兎のごとく立ち去りました。

 

そうすることしかできなかった。

 

罪悪感と気まずさが入り混じった、得もいわれぬ感情に襲われ、帰りはみな無言。

 

その後、1週間ほど町内の子と遊ぶのを止めていたのを覚えています。

 

戦争ごっこの思い出……。

 

それが、なぜか半世紀後の今になって、甦ってきました。

-エッセー

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。