ブラック・ムービー(黒人映画)の旗手、スパイク・リー監督が渾身の力を込めて撮った犯罪サスペンス。
約半世紀前の物語とはいえ、人種や宗教で分断が進むアメリカの今を浮き彫りにしている。
この監督初のアカデミー受賞作(脚色賞)。
不朽の名作『風と共に去りぬ』(1939年)のアトランタ陥落シーンが冒頭に映される。
南北戦争での南軍敗北による奴隷制崩壊の象徴的な場面。
その後もしかし、黒人差別が続くという意味深な序章である。
一転、1972年の田舎町に転換する。
過激なブラック・パワーが吹き荒れる中、青年ロンが唯一、黒人警察官として地元警察署に採用される。
署内でも差別が横行する歪な時代だった。
ロンに扮するジョン・デヴィッド・ワシントンは名優デンゼル・ワシントンの息子。
父親がリー監督の代表作『マルコムX』(92年)で主演していた。
まことに奇妙な縁……。
この主人公が白人至上主義の秘密結社KKK(クー・クラックス・クラン)への潜入捜査に着手する。
相棒の白人刑事フリップ(アダム・ドライバー)がユダヤ人というのがミソ。
思いもよらぬ超変化球の作戦に度肝を抜かれるだろう。
非常にシリアスな内容で、いつ正体がバレるのかとハラハラさせられる。
なのに全編、ユーモアが散りばめられ、笑いを生む。
その〈ゆとり〉が本作の隠し味になっていた。
「アメリカ・ファースト」を連呼するKKKの最高幹部(トファー・グレイス)。
その姿がトランプ大統領を彷彿とさせ、かなり政治的な映画といえる。
聡明な黒人対愚かな白人。
一見、単純な構図だが、差別を許さない白人もきちんと描かれている。
何よりもこのドラマが実話であることに驚かされる。
歯に衣着せぬ発言で知られるリー監督ならではの風刺の利いた一作だった。
2時間15分
★★★★(見逃せない)
☆3月22日(金)より、全国公開
TOHOシネマズ梅田/TOHOシネマズなんば/MOVIX京都/シネ・リーブル神戸……。
(日本経済新聞夕刊に2019年3月22日に掲載。許可のない転載は禁じます)