けさ、ABC朝日放送テレビの朝のワイド番組『おはよう朝日 土曜日です』にゲスト出演してきました。
お正月のおススメ映画の解説。
5本取り上げましたが、最後に熱っぽく語った映画が本作でした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ナチス・ドイツによるホロコースト(大量虐殺)が絡む映画では異色作に属する。
自らのアイデンティティーを確認するため、郷里への一人旅を敢行する老人の物語。
人との触れ合いがことさら胸に響く。
監督はユダヤ系アルゼンチン人のパブロ・ソラルス。
祖父の前では、「ポーランド」の言葉を発するのがタブーだったという記憶を基に脚本を執筆した。
ブエノスアイレスで仕立屋を営む88歳のアブラハムが老人施設に入る前夜、自宅を抜け出し、単身、飛行機でスペインへ飛ぶ。
手には自ら仕立てた背広。
彼はポーランドの地方都市で生まれ育った。
第2次大戦中、ユダヤ人ゆえ強制収容所に移送されたが、辛くも逃げ延びていた。
その時に傷つけられた右脚を今なお引きずって歩く。
郷里へは二度と戻らないと決めていたのに、使命感に突き動かされ、故国に向かう。
70年間、音信不通の親友との再会を願って……。
そこに背広の重要性が秘められており、物語がにわかに深化していく。
マドリッドから鉄道を利用するも、忌み嫌うドイツの経由を断固、拒む。
このように意地っ張りで気難しく、それでいてどこか憎めない老人をアルゼンチンの名優ミゲル・アンヘル・ソラが見事に演じ切った。
見ていてハラハラさせるこの爺さんに女性たちが力を添える。
ホテルの女主人、ドイツの女性文化人類学者、看護師……。
彼女たちとの関わりが実に温かく、しなやかに描かれていた。
疎遠な末娘と会う脇筋が光っていた。
彼女の腕には収容所番号の入れ墨。
父親の苦しみを受け継ぐ証しである。
これぞ細部にこだわった演出であろう。
「友情」と「約束」。
2つのキーワードがラストで前面に迫ってくる心に染み入るロードムービーだった。
1時間33分
★★★★(見逃せない)
☆12月22日(土)~シネ・リーブル梅田、 京都シネマ、 シネ・リーブル神戸にて公開
(日本経済新聞夕刊に2018年12月21日に掲載。許可のない転載は禁じます)