©2010『オカンの嫁入り』製作委員会
このタイトルを観て、ウ~~ンと引く人がいるかもしれないが、この映画は見応えありますよ。
今日の日本経済新聞夕刊に掲載されたぼくの映画エッセーです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
母娘の絆をほんわかとしたムードで描いた家庭ドラマ。
大阪を舞台に大阪人が登場する、いわゆる大阪映画によく見られるベタつき感があまりなく、適度な品を保っていた。
そこが妙に新鮮に感じられた。
未明、酔っ払って帰宅した母親の陽子(大竹しのぶ)が「お土産がある」と戸口で泥酔している男を娘の月子(宮粼あおい)に紹介するや、「プロポーズされたの」と平然とのたまう。
ケレン味のある冒頭シーンから娘の不機嫌が始まる。
開けっぴろげで、屈託のない陽子。
少し根暗で慎重派の月子。
名前のごとく全く対照的な母子が2人で肩を寄せ合って暮らしてきたが、陽子が15歳年下の研二(桐谷健太)と再婚することで秩序が一気に乱れる。
嫌悪感、不潔感、疎外感、嫉妬心などマイナスの感情が月子に芽生え、母、娘、母親の婚約者との三角関係を軸に物語が展開する。
母子の家は京阪沿線のとある町。
当然、流暢な大阪弁を操り、大阪人特有の“体臭”を醸し出さねばならない。
大竹と宮粼は共に東京生まれだが、それをほぼクリアしていた。
脇を固める俳優も大阪人が多く、安心して観られた。
©2010『オカンの嫁入り』製作委員会
大阪色を強調しすぎると、ステレオタイプなコテコテの作風になる。
三重県出身の呉美保監督は色眼鏡で見ず、程よくアクの強さをそぎ落とし、まろやかな空気を映像に注ぎ込んだ。
監督2作目。演出力がある。
研二は金髪のリーゼントでヤンキー丸出し。
見るからにとっつきにくそうだが、実は心根の優しい男で、元板前とあって料理の腕はピカ一。
彼の手作りの品々が脇役から主役へと躍り出てくるところが面白い。
陽子は結婚式で白無垢を着たいと言い出す。
なぜか焦っている。
その理由が明らかになったとき、愛情と思いやりが映画に充満した。
1間50分。★★★★
☆9月4日(土)
梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、
MOVIX京都、三宮シネフェニックス、シネプレックス枚方他
全国ロードショー
配給:角川映画
(日本経済新聞2010年9月3日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
ベタつき感のない大阪映画~『オカンの嫁入り』
投稿日:2010年9月3日 更新日:
執筆者:admin