『永い言い訳』や『万引き家族』など疑似家族を描いた映画には社会の闇にメスを入れた作品が多い。
本作はその最たるもの。
不安定な日常を生き抜く「父娘」の儚げな姿に胸が衝かれる。
大阪を舞台にした濃密な2人劇。
原作は46歳で早世した大阪出身の漫画家、小路啓之の同名作品。
それを熊澤尚人監督が心理描写にこだわり、丁寧に映画化した。
家に閉じこもる40歳目前の無職の男、城宮(千原ジュニア)が全身、傷だらけの5歳の娘(平尾菜々花)を救出したことが事の発端。
2人は「パパやん」、「ヨヨ子」と呼び合い、一緒に暮らし始める。
世間的には誘拐犯と被害者の関係になる。
彼らはしかし、心の拠り所として、唯一無二の存在として父親と娘を演じ、やがて素で触れ合うようになる。
実の親から虐待を受けていたであろうヨヨ子は過去を一切語らず、謎めいている。
そんな娘に人とのコミュニケーションが苦手な中年男がぎこちなく父性愛を注ぎ込む。
その健気さが何とも痛々しい。
城宮の父親が残した帽子店での清貧な暮らしぶりは社会から孤立する弱者の象徴である。
そこに育児放棄、年金不正受給、引きこもり、いじめ、虐待などの社会問題を絡め、現実の厳しさを突きつける。
うら寂れた商店街の佇まいが作風にぴったり合っていた。
残念なのは撮影が大阪ではなく、全て関東圏で行われていたこと。
空気感が違う。
ぜひとも「現場」で撮ってほしかった。
2人の生活がいつどんな形で終焉を迎えるのか。
常にそのことを意識させられる。
ヨヨ子の全貌が明るみに出る意外な結末にほのかな希望が見え、安堵した。
鬼気迫る演技を披露した千原と子役ながら堂々たる存在感を示した平尾。
息の合ったコンビが稀有な家族ドラマを生み出した。
1時間54分
★★★★(見逃せない)
☆12日1日からシネ・リーブル梅田、京都・出町座で、15日からシネ・リーブル神戸で公開。
(日本経済新聞夕刊に2018年11月30日に掲載。許可のない転載は禁じます)