それでも一時の酷暑を思えば、楽チン、楽チン~(^o^)v
そろそろ夏が終わるんやと勝手に思い込んでいます。
まさにタイムリーな題名の映画が公開されます。
『夏の終り』
その映画についての拙文です。
☆ ☆ ☆ ☆
文芸作品の馥郁たる香りが全編を覆う。
その中で繰り広げられる男女の愛憎劇。
流れに身を委ねながらも、新たな世界へと羽ばたく1人の女性の決意を丹念に紡いでいく。
原作は瀬戸内寂聴が40歳の時に編んだ、半ば自伝的同名小説で、代表作でもある。
それを熊切和嘉監督が鋭い感性を生かして銀幕に映し出した。
妻子のいる年上の売れない作家、慎吾(小林薫)とかつて駆け落ちした相手の亮太(網野剛)。
染色家の知子(満島ひかり)は2人の男の間で揺れ動く。
慎吾は寛容さと優しさだけがとりえの男。
飄々としたところにずるさと哀しみを匂わせる。
年下の亮太はヨリを戻したことで、一途に和子を求める。
両者の温度差が映画の軸となる。
はっきり言って、どろどろした恋愛ドラマである。
それが途中から様相が変わる。
主人公が自分の生き方を見据え、転身を図るのだ。
「息苦しい!」と叫び、染めた布地を破るシーンにそれが集約されていた。
構図といい色彩といい、完ぺき。
居心地の良さがかえって自分を締め付け、そこから脱却しようと思い立った瞬間である。
慎吾の妻から電話がかかり、和子が緊張した面持ちで受話器を手にする場面も秀逸だった。
あえて覗き見しているようにぼかし気味に撮ったことで、見えないはずの妻の顔をイメージさせ、同時に彼女の心象を見事にあぶり出していた。
小津安二郎を参考にしたであろうローアングルと長回しが随所に生かされている。
ややくすんだ、それでいて味わいのあるシックな色調が昭和30年代のどこか澱んだ空気を映像に落とし込んだ。
『海炭市叙景』(2010年)で文芸映画に対する確かな演出力を見せた熊切監督。
本作でさらに技量がアップした。
満島の情感的な演技も評価したい。
1時間54分
★★★★(見逃せない)
☆31日から大阪・テアトル梅田ほかで公開
(日本経済新聞2013年8月23日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)