これは実にスリリングな映画でした。
こういう人がいたとは知らなかった。
映画はいろんなことを教えてくれます。
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「人工知能の父」と呼ばれる英国のアラン・チューリング(1912~54年)。
第2次大戦中、世界最強といわれたドイツ軍の暗号エニグマの解読にこの希代の数学者がいかに挑んだのか。
その姿を隠された私生活を盛り込み、忠実に再現した。
開戦後、ドイツ軍が欧州を席巻し、英国にも攻め入ってきそうな情勢。
暗号解読は国家存亡の危機を救う一大プロジェクトだった。
なのにチューリングは数学オタクが難問を解くようなゲーム感覚で事に当たる。
しかも解読チームのメンバーと交わらず、常に単独行動。
それも全く違ったベクトルを発揮し、ひたすら暗号解析のための装置を作成すべく没頭する。
変人ぶりがことさら強調されるが、天才肌の人なら、さもありなん。
それがこの人の個性であり、やがて実を結ぶことになる。
主演のベネディクト・カンバーバッチ。
テレビシリーズ「SHERLOCK(シャーロック)」で好演した21世紀のシャーロック・ホームズを彷彿とさせる人物を本作でも見事に演じ切っていた。
まさに適役と言えよう。
主人公を変身させる、クロスワードパズルに長けた女性ジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)との顛末。
少年期の愛おしくも辛い思い出。
2つの重い脇筋に本人の性癖を絡ませ、物語を絶妙に光らせる。
その編集が巧みだった。
暗号解読の成功が連合国を勝利に導いたといわれている。
しかし国家機密とあって、50年間、そのことが一切、明かされなかった。
これまで不当に扱われてきたチューリングの功績をノルウェー人のモルテン・ティルドゥム監督が実に丁寧に紡ぎ上げた。
深い人間ドラマとして観させる。
他者との違いを認め、それを理解することの大切さ。
映画はそこにポイントを置いていたと思う。
「異端の勝利」と受け止めたい。
1時間55分
★★★★(見逃せない)
☆TOHOシネマズ梅田ほかで公開中
(日本経済新聞2015年3月13日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)