北海道警察で実際にあった警察官による違法捜査事件をベースにした異色犯罪映画。
人間の悪意を直視した『凶悪』(2013年)で濃密な演出力を示した白石和彌監督が、実績重視の組織のなかで歪められていく正義感をあぶり出した。
「正義の味方、悪を絶つ」
大学柔道部での活躍を買われ、道警に入った諸星は実直な警察官だった。
ところが機動捜査隊に配属された時、ベテラン刑事(ピエール瀧)から「組織で生き抜くには、検挙・摘発件数が全てだ」と教えられ、以降、「点数稼ぎ」に明け暮れる。
でっち上げ、やらせ逮捕、おとり捜査だけでは収まらず、自分で購入した拳銃を押収品として計上する始末。
歯止めが効かなくなり、どんどんエスカレートしていく。
旬の俳優、網野剛が体重を10㌔増減させ、諸星というアンチヒーロー役に挑んだ。
悪の世界に染まるにつれ、人相が変わる。
綾野の鬼気迫る怪演なくしてこの映画はあり得ない。
「S(エス)」と呼ばれる3人の捜査協力者(スパイ)の存在も大きい。
暴力団の幹部(中村獅童)、覚せい剤運び屋のDJ(YOUNG DAIS)、パキスタン人の盗難車バイヤー(植野行雄)。
主人公が彼ら3人と共謀し、“事件”を作り上げていく姑息的な様が滑稽にすら思える。
組織が求める成果=正義。
その遂行のためには手段を選ばなくてもいい。
そう解釈する諸星は、自分のことしか見ておらず、法の番人であることすら忘れてしまう。
道徳観念のマヒ。
その愚かしい姿にカメラが肉迫し、実にエネルギッシュな映像を構築した。
グイグイ引き込む。
東映の実録路線風に撮られた場面があり、どこか郷愁を覚える。
嘘のような本当の話。
日本では映画化しにくい題材だが、かくも見ごたえのある娯楽作に仕上げた白石監督の手腕を大いに評価したい。
2時間15分
★★★★(見逃せない)
☆25日から大阪ステーションシティシネマほかで公開
(日本経済新聞夕刊に2016年6月24日に掲載。許可のない転載は禁じます)