「七年目の浮気」「アマデウス」「戦火の馬」……。
舞台劇の映画化は非常に多い。
ミュージカル映画となると、ほぼ全てがそうだ。
こうした作品は、いかに程よく劇から遊離できるかがポイント。
本作はその良い典型例だった。
英国の劇作家アラン・ベネットの実体験を基に1999年、ロンドンで舞台化された。
映画では演出家ニコラス・ハイトナーが監督を務め、主演のマギー・スミスとアレックス・ジェニングスが同じ役に扮した。
ミス・シェパードはとんでもない老女だ。
薄汚い衣服をまとい、見るからに不潔で、悪臭を放っているのだからたまらない。
しかも高飛車。
親切にしてもらった人にも悪態をつく。
1人身で、黄色いポンコツのワゴンを住居にし、自由気ままに過ごす。
そんな彼女が高級住宅地に暮らす劇作家ベネット(ジェンキンス)の自宅の車寄せにワゴンを乗りつけ、何と15年間も居坐り続けた。
あまりにも奇抜な状況とあって、最初はとまどうかもしれない。
しかしフランス語を話せ、音楽に精通する主人公のミステリアスな面が増幅され、いつしか物語に引きずり込まれる。
そもそもどうしてこんな荒んだ生活を送るようになったのか。
一体、何者なのだ。
疑問を抱きつつ、彼女に惹かれていくベネットの姿が少しユーモラスに描かれる。
時折、戯作者の分身が現れ、本人といがみ合う場面が妙におかしい。
とかく劇では大仰になりがちな演技がかなり抑えられていた。
それでいて舞台めいた空気をそこはかとなく感じさせる。
そこがこの映画の持ち味といえよう。
常に気高さを失わないシェパード。
彼女は「レディ(淑女)」なのだ。
何とも風変わりな女性を演じたマギー・スミスの強烈なオーラに圧倒されっぱなし。
英国の演劇・映画界の懐の深さを改めて実感させられた。
1時間44分
★★★(見応えあり)
☆24日からシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸で、近日中に京都シネマで公開
(日本経済新聞夕刊に2016年12月9日に掲載。許可のない転載は禁じます)