武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

こんな生き方も……英国映画『ミス・シェパードをお手本に』

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(c)2015 Van Productions Limited, British Broadcasting Corporation and TriStar Pictures,Inc. All Rights Reserved.

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「七年目の浮気」「アマデウス」「戦火の馬」……。

 

舞台劇の映画化は非常に多い。

 

ミュージカル映画となると、ほぼ全てがそうだ。

 

こうした作品は、いかに程よく劇から遊離できるかがポイント。

 

本作はその良い典型例だった。

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英国の劇作家アラン・ベネットの実体験を基に1999年、ロンドンで舞台化された。

 

映画では演出家ニコラス・ハイトナーが監督を務め、主演のマギー・スミスとアレックス・ジェニングスが同じ役に扮した。

 

ミス・シェパードはとんでもない老女だ。

 

薄汚い衣服をまとい、見るからに不潔で、悪臭を放っているのだからたまらない。

 

しかも高飛車。

 

親切にしてもらった人にも悪態をつく。

 

1人身で、黄色いポンコツのワゴンを住居にし、自由気ままに過ごす。

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そんな彼女が高級住宅地に暮らす劇作家ベネット(ジェンキンス)の自宅の車寄せにワゴンを乗りつけ、何と15年間も居坐り続けた。

 

あまりにも奇抜な状況とあって、最初はとまどうかもしれない。

 

しかしフランス語を話せ、音楽に精通する主人公のミステリアスな面が増幅され、いつしか物語に引きずり込まれる。

 

そもそもどうしてこんな荒んだ生活を送るようになったのか。

 

一体、何者なのだ。

 

疑問を抱きつつ、彼女に惹かれていくベネットの姿が少しユーモラスに描かれる。

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時折、戯作者の分身が現れ、本人といがみ合う場面が妙におかしい。

 

とかく劇では大仰になりがちな演技がかなり抑えられていた。

 

それでいて舞台めいた空気をそこはかとなく感じさせる。

 

そこがこの映画の持ち味といえよう。

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常に気高さを失わないシェパード。

 

彼女は「レディ(淑女)」なのだ。

 

何とも風変わりな女性を演じたマギー・スミスの強烈なオーラに圧倒されっぱなし。

 

英国の演劇・映画界の懐の深さを改めて実感させられた。

 

1時間44分

 

★★★(見応えあり)

 

☆24日からシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸で、近日中に京都シネマで公開

 

(日本経済新聞夕刊に2016年12月9日に掲載。許可のない転載は禁じます)

 

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。