トム・ハーディ。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『レヴェナント 蘇えりし者』などで圧倒的な存在感を示し、今や最も注目株の男優だ。
本作では暗黒街を牛耳る双子の兄弟を1人で演じ切った。
ビートルズ旋風が世界を席巻し、英国が輝いていた1960年代半ば。
ロンドンの裏社会ではレジナルド(レジー)とロナルド(ロン)のクレイ兄弟が暗躍していた。
かの国ではよく知られた実在のギャングだ。
レジーは頭が切れ、商才に長けるビジネスマン・タイプ。
片やロンは情緒不安定で、凶暴性を覗かせる不気味な男。
全く対照的なキャラクターがスリリングなドラマを紡ぎ出す。
予備知識がなければ、ハーディの1人2役が分からないかもしれない。
顔立ちも声のトーンも変え、完璧に別の人格を演じ分けた。
2人が絡むシーンでは異様な雰囲気をはらませる。
貧しい家庭で生まれ育った彼らが国内最強のギャングにのし上がり、挫折する姿を追う。
アメリカ人のブライアン・ヘルゲランド監督は閉塞感が漂う陰鬱な空気を映像に注ぎ込み、マフィア映画とは一線を画す実録物に仕上げた。
兄弟の確執が物語の大きな軸となる。
レジーは突然、暴発する弟を疎ましく思い、ロンの方もギャング色を払拭し、スマートに生きる兄を毛嫌いする。
そんな2人が沸点に達し、殴り合いの喧嘩をするシーンが最大の見せ場。
いかに撮影したのか、思わず見入ってしまった。
レジーが部下の妹フランシス(エミリー・ブラウニング)に恋をし、純情一筋で押し通す脇筋はほほ笑ましい。
一種の清涼剤。
ただ、顛末がお決まりのパターンだったのが残念。
ハーディの演技力がひときわ輝く英国版「フィルム・ノワール」(犯罪映画)。
内実は極めて特異な絆で結ばれた兄弟の物語だった。
2時間11分
★★★★(見逃せない)
☆18日(土)テアトル梅田、シネマート心斎橋、ユナイテッド・シネマ橿原
☆7月16日(土)シネ・リーブル神戸
☆7月30日(土)京都シネマ
(日本経済新聞夕刊に2016年6月17日に掲載。許可のない転載は禁じます)