武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

普通の青春純愛映画とひと味、いや、ふた味もちがう『半分の月がのぼる空』

投稿日:2010年4月2日 更新日:

きょうは大学(関西大学社会学部マス・コニュニケーション学専攻)の先生方との懇親会のあと、オープン7周年を迎えた大阪・キタのバーにほんとうに久しぶりに立ち寄り、ひじょうに心地よい時間を味わえました。
ほろ酔い気分で帰宅し、阪神の試合結果を調べたら、何と~~~、中日に逆転負け~!!
そんなアホな……。5点リードで勝っていたのに。そやから安心してバーに足を向けたのに~。
こういうことはすぐに忘れないといけません。気分転換に映画の原稿をアップします。
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
半月
  (C)2010 映画「半分の月がのぼる空」製作委員会
不治の病に苦しむ可憐な恋人との死別……。
昨今の青春純愛映画はお涙頂戴モノがやけに多く、しかも先が読めてあまり面白く思えない。
でも本作は違った。
過去の辛いしがらみから脱却し、再生する滋味深い人間ドラマだったからだ。
作家、橋本紡の同名小説を深川栄洋監督が映画化した。三重県伊勢市でのオールロケ。
高校2年生の裕一(池松壮亮)が肝炎で入院した病院で、重い心臓病で9歳から入院生活を送っている同い年の里香(勿那汐里)と知り合う。
彼女はお高くとまっている文学少女だ。
どうにも陰鬱な展開になりそうなのに、一緒にいたいという2人の純粋な気持ちが映像に涼風を注ぎ込む。
夜間、里香を山登りに連れて行ったり、原付バイクに乗せて商店街を疾駆したり。裕一の献身的な愛の眩さをストレートに伝える。
こうした彼らの恋愛譚と並行して描かれるのが医師、夏目(大泉洋)の暗澹たる姿である。
半月B
  (C)2010 映画「半分の月がのぼる空」製作委員会
6年前、自分が執刀した心臓手術で、最愛の妻を亡くしたことに言い知れぬ負い目を感じており、以後、メスを持てず、内科医に転向した。
病院を舞台に2つの人生模様を巧みに交錯させ、最後にあっと言わせる顛末を用意している。
そのトリックがちっともあざとくない。知らぬ間にはまり、心地良さすら覚える。
観る者を納得させるこなれた脚本と演出力のなせる業だ。
里香が愛読する宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」が物語の鍵になる。
孤独な主人公の少年を助けるために命を落とす友人カンパネルラに、彼女は自分自身を重ね合わせる。
そして半月の蒼白い光が登場人物に静々と降り注ぐ。
何やら暗示的で意味深……。
大泉が見せた大号泣シーンには驚かされる。
その涙に愛の重みをズシリと感じた。
1間52分。
☆4月3日(土)より、シネ・リーブル梅田にてロードショー
☆4月10日(土)より京都シネマ&シネ・リーブル神戸にてロードショー
(日本経済新聞2010年4月2日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。