日経新聞に書いている映画原稿(エッセー?)の今年最後の分が本日夕刊に載りました。
えらいシブ目の作品です(^o^)v
アルジェリア出身のフランス人作家アルベール・カミュ(1913~60年)の自伝的小説の映画化。
作家の原風景が、荒れ狂う過酷な現実と交錯しながら描き出される。
監督はイタリア人のジャンニ・アメリオ。
57年、パリで暮らす作家コルムリ(ジャック・ガンブラン)が老いた母親に会うため、久々に故郷アルジェリアへ帰省する。
しかし現地では独立戦争の真っ最中だった。
フランス人とアルジェリア人との激しい対立。
両者の共存を提唱する主人公が混迷の泥沼に突き落とされる。
それがカミュの作品を特徴づける不条理さと重なり、何とも意味深だ。
今や故郷も本土も異国のように映り、根無し草同然のコルムリ。
そんな彼が母親と過ごすうちに、自分の原点へと回帰していく。
厳格な祖母に折檻された辛い日々、文才を認めてくれた小学校の恩師の助言、アルジェリア人少年とのふれ合い……。
幼少期の思い出が次々と甦ってくる。
カミュとよく似た生い立ちを持つというアメリオ監督は、抑制を効かせながらも、非常にノスタルジックな味付けを回想シーンに施した。
どこか名作『ニュー・シネマ・パラダイス』(89年)を彷彿とさせる。
深い郷土愛、母親との強い絆、独立戦争の嵐がよどみなく絡まり、物語は作家の内なる世界へと深化していく。
換言すれば、自分探しの旅である。
原作は、カミュがノーベル文学賞を受賞した3年後、交通事故死した時に鞄の中にあった遺稿。
アルジェリアでゼロから出発したという意味を込め、仰々しい題名がつけられたという。
この作家を知らずとも、十分、楽しめる。硬直化した社会は現代でも通じる問題だ。
何よりも追憶することの意義を詩情豊かな映像で示してくれる。
本作を観て、心が少し潤った。
1時間45分
★★★
☆29日から大阪・梅田ガーデンシネマで公開
(日本経済新聞2012年12月28日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)