武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

カミュの原風景を“スケッチ”した『最初の人間』

投稿日:2012年12月28日 更新日:

日経新聞に書いている映画原稿(エッセー?)の今年最後の分が本日夕刊に載りました。

 

えらいシブ目の作品です(^o^)v

 

    ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

アルジェリア出身のフランス人作家アルベール・カミュ(1913~60年)の自伝的小説の映画化。

 

作家の原風景が、荒れ狂う過酷な現実と交錯しながら描き出される。

 

監督はイタリア人のジャンニ・アメリオ。

 

57年、パリで暮らす作家コルムリ(ジャック・ガンブラン)が老いた母親に会うため、久々に故郷アルジェリアへ帰省する。

 

しかし現地では独立戦争の真っ最中だった。

 

フランス人とアルジェリア人との激しい対立。

 

両者の共存を提唱する主人公が混迷の泥沼に突き落とされる。

 

それがカミュの作品を特徴づける不条理さと重なり、何とも意味深だ。

 

今や故郷も本土も異国のように映り、根無し草同然のコルムリ。

 

そんな彼が母親と過ごすうちに、自分の原点へと回帰していく。

厳格な祖母に折檻された辛い日々、文才を認めてくれた小学校の恩師の助言、アルジェリア人少年とのふれ合い……。

 

幼少期の思い出が次々と甦ってくる。

カミュとよく似た生い立ちを持つというアメリオ監督は、抑制を効かせながらも、非常にノスタルジックな味付けを回想シーンに施した。

 

どこか名作『ニュー・シネマ・パラダイス』(89年)を彷彿とさせる。

 

深い郷土愛、母親との強い絆、独立戦争の嵐がよどみなく絡まり、物語は作家の内なる世界へと深化していく。

 

換言すれば、自分探しの旅である。

 

原作は、カミュがノーベル文学賞を受賞した3年後、交通事故死した時に鞄の中にあった遺稿。

 

アルジェリアでゼロから出発したという意味を込め、仰々しい題名がつけられたという。

 

この作家を知らずとも、十分、楽しめる。硬直化した社会は現代でも通じる問題だ。

 

何よりも追憶することの意義を詩情豊かな映像で示してくれる。

 

本作を観て、心が少し潤った。

 

1時間45分

 

★★★

 

☆29日から大阪・梅田ガーデンシネマで公開

 

(日本経済新聞2012年12月28日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。