「ウイスキーで人生が変わったんです」
この話はあちこちで、よぉ喋っています。
南大阪のバーを紹介したフリーの冊子『SHAKES Vol.4』にもエッセーで載せています。
ブログでも以前、書いたことがあるかもしれませんが、全文をアップしましょう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「な、なんや、これは!」
かれこれ四半世紀前、新聞記者をしていた32歳の時、スコッチのシングルモルト・ウイスキーを初めて口にし、感動のあまり声を上げてしまった。
銘柄はグレンフィディック。
お酒の飲めない親戚からお下がりで頂いた中元の品である。
シングルモルトは今やポピュラーだが、当時はまだまだレアで、居酒屋一辺倒だったぼくには無縁の洋酒だった。
香りも風味もそれまで飲んでいたモノとは何もかも異なっており、完全に心を奪われた。
それからだ。
モルトを求め、バーに通うようになったのは。
そこではしかし、カクテル、リキュール、ラムなどウイスキー以外のお酒にも目覚め、異業種の人とも知り合え、狭かった自分の世界がどんどん広がり始めた。
現実からちょっぴり遊離した異空間で嗜むお酒。
それはぼくに癒しと明日への活力を与え、何よりも大人であることを自覚させてくれた。
いつしかバーに足を運ぶうち、モルトを味わうだけでは物足りなくなり、それを生み出すウイスキーの蒸留所を実際に見たくなった。
記者魂がふつふつと湧き出てきたのだ。
そして2年後、勤続10年休暇を利用してスコットランドへ飛んだ。
1週間の滞在中、各地の蒸留所を駆け足で巡ったが、ぼくの関心はむしろスコットランドそのものに移っていった。
英国に属していながら、南のイングランドとはまた違った空気が流れており、住人のイングランドへの対抗意識も相当なもの。
ウイスキーの銘柄にも英語と異なる表記(ケルト語の一種ゲール語)が目立つ。
俄然、興味を覚えた。
スコットランドへは学生時代に一度訪れていたが、そのときは単に英国の一地方という認識しかなかった。
帰国後、さっそくかの地の歴史を文献でひも解くと、6世紀、アイルランドから渡ってきたスコット人が建国の礎を築いたことがわかった。
そのスコット人がケルト人の一部族だという。
「ケルト?」
初めてその名を目にしたぼくは、まるで麗しの恋人に出会った時のような激しいと
きめきを覚えたのだった。
こうして「ケルト熱」に冒され、1995年に新聞社を退職後、ヨーロッパに点在するケルトの関連地を隈なく訪ね歩いた。
ケルト文化が欧州の基層文化であることが浮かび上がり、ますますのめり込んでいった。
足かけ10年にわたる旅。
その成果を「ケルト」紀行シリーズ全10巻として完結できた。
このことはぼくにとってかけがえのない宝物となった。
大きな自信としなやかさが身につき、考えてばかりではダメで、行動に移すことの大切さも痛感した。
人生、一度限り。
やりたいことはちゃんと取り組まなアカン。
でないと後悔する。
確固たる指針が芽生えた。
今でもよく思う。
あのときグレンフィディックを口にしなかったら、今のぼくは絶対にないと。
ちょっとした縁が予期せぬ連鎖反応を引き起こす。
人生に豊かな彩を添えてくれたお酒。
あゝ、1杯の重みを実感……。
一杯のお酒が人生を変える!?
投稿日:2012年3月27日 更新日:
執筆者:admin