(c)OCEANIC PRESERVATION SOCIETY. ALL RIGHTS RESERVED.
参議院選挙スタート、サッカーW杯の対デンマーク戦の直前……。
何だか気ぜわしくなってきましたが、上映中止の動きが出てきて話題になっているアメリカのドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』(ルイ・シホヨス監督)について少し私見を述べたいと思います。
ご存知のように、和歌山県太地町の入り江で行われているイルカ漁の実態を探った作品です。
まぎれもなく取材に基づいた映像です。
なのに、最初から最後まで反捕鯨の立場を貫き、取材される側をおろそかにしているように思いました。
つまり当事者である太地町の漁師の本音、地域文化としてのイルカ漁という面がまったく浮き彫りにされていませんでした。
頑なに取材拒否されたので、隠し撮りした--。それをセールスポイントにしています。
というか、いかに苦労して隠し撮りしたかという方法論に重きを置いているような気もしました。
夜中、岸壁や海中にカメラを設置するシーンなんて、サスペンス映画のようでした。
なるほど漁師の声を取っていますが、それらは撮影チームに対する罵声ばかりで、あたかも彼らが「悪の権化」「社会悪」のように描かれていました。
そしてクライマックスのイルカ漁の残虐性へと結びつけていきます。
たとえ取材拒否されても、何らかの形で相手側を取り上げるのが正当なやり方だと思います。
例えば、昔から伝わる捕鯨の記録映像を盛り込んだり、町の成り立ちや町民の暮らしぶり、日本におけるイルカ漁の歴史を紹介したりして。
というのは、地元の人たちの生活、引いては日本人の食文化にも関わるとてつもなく大きなテーマだとぼくは思うからです。
相手側の立場を尊重できなければ、取材してはいけないデリケートな問題に思えてなりません。
きちんと押さえるべきところは押さえないと、フェアじゃなくなります。
実際、この映画は価値観の一方的な押し付けになっています。
可愛そうだから、イルカは高等動物だから、生息数が減っているから、イルカの肉には有機水銀が多く含まれているから……、こうした理由でひとつの文化を断罪しようとしています。
告発しているんですね。
公害病や汚職などとはまったく別次元の問題なのに、おなじスタンスで迫ろうとしています。
ちょっと言い過ぎかもしれませんが、自分と違った意見や主張を抹殺する原理主義の怖さを垣間見ました。
(c)OCEANIC PRESERVATION SOCIETY. ALL RIGHTS RESERVED.
「文化と言うのなら、どうして外部の人を遮断してイルカ漁を行っているのか」
映画のナビゲーター的な存在の元イルカ調教師、リチャード・オリバーさん(反捕鯨論者)はこんな説明をしていましたが、捕鯨への批判が高まる中、堂々とオープンにして漁ができるはずがありません。
なぜ人目を避けて漁をせねばならなくなったのか、あるいはひょっとしたら昔からそうしていたのか、そこのところを追求するのがドキュメンタリー映画の本髄ではないのでしょうか。
今のイルカ漁が時代にそぐわなければ、他に方法があるのではと提案するのもひとつの方策だと思います。
頭ごなしに自分たちの考えをぶつけてくるのは、あまりにも大人げない。
とにもかくにも、この映画は取材不足です。
当時者との距離が遠すぎます。
シロクロはっきりさせ、わかりやすすぎます。
それゆえ本年度のアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞できたのでしょうかね。
それがとても残念に思いますが、欧米人の価値観に合っているんやろうな~と受賞に納得もできます。
ともあれ、こういう一方的に斬っていく見方もあるんやとわかったのは大きな収穫でした。
思いつくまま、このように長々と綴らせるほどこの映画はいろんな問題をはらんでいます。
だからこそ、ひとりでも多くの人に観てもらって、文化とは何かを考えてもらいたいです。
☆7月3日から、大阪では十三の第七藝術劇場で公開されます。
文化ってなんやねん~『ザ・コーヴ』を観て
投稿日:2010年6月25日 更新日:
執筆者:admin