20世紀アメリカ文学を代表する青春小説の金字塔『ライ麦畑でつかまえて』(1951年刊行)。
この作品に影響を受けた人は少なくないだろう。
本作で長編デビューを飾ったジェームズ・サドウィズ監督もその1人。
思春期のほろ苦い体験を瑞々しい映像で再現させた。
16歳のジェイミー(アレックス・ウルフ)は内省的で孤独な高校生。
日々、悶々とする中、『ライ麦畑で~』を脚色し、演劇サークルでの舞台化を思い立った。
欺瞞だらけの大人社会に不満をぶつける小説の主人公強く共感していたからだ。
いや、自分の分身と思っていたのかもしれない。
劇にするには、著者J.D.サリンジャーに許可を得なければならない。
時代は1969年。
すでにこの人は作家活動を止め、田舎で隠遁生活を送っていた。
どこで暮らしているのかわからない。
ジェイミーは女友達のディーディー(ステファニア・オーウェン)と共に憧れの小説家を探し求める。
分かりやすい内容だ。
とある事件が発生し、高校の寮を飛び出すくだりは小説とそっくり。
原作を知っておれば、なおさら興味深く観られるだろう。
前半、誰にも打ち明けられない胸の内をカメラに向かって独白するシーンが何度か映る。
意図はわかるのだが、物語の流れを中断させていたように思えた。
ロードムービーの開放的な空気がサリンジャー本人との対面で一転、凝縮する。
伝説の作家に扮したクリス・クーパーのシブイいぶし銀の演技が見ものだ。
トウワタの種子が風に舞う野原がたまらなく美しい。
少年の純粋でひたむきな気持ちがその光景に宿っていたように感じられた。
『ライ麦畑で~』へのオマージュ(賛辞)。
本作にはそれが溢れんばかりに出ていた。
こういう自伝的な青春譚には心がくすぐられる。
1時間37分
★★★★(見逃せない)
☆10月27日(土)~ テアトル梅田、MOVIX京都
11月10日(土)~ シネ・リーブル神戸
☆配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
©2015 COMING THROUGH THE RYE, LLC ALL RIGHTS RESERVED
(日本経済新聞夕刊に2018年10月26日に掲載。許可のない転載は禁じます)
サリンジャーの小説世界は日本人の感覚とはまるで異質のように思います。おそらく米国人でも理解できていないんじゃないかと。「The catcher in the rye」を読んで主人公の青春に共感できたなんて言っている人ほんまかいなと思います。失礼しました。
返信が遅れてすみません。
本作の監督は共感できたそうで、自伝的な映画になっています。